研究課題/領域番号 |
20K10559
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
石川 隆紀 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (50381984)
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研究分担者 |
谷 直人 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (00802612)
池田 知哉 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (10620883)
渡邊 美穂 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 特任助教 (20845317)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 低酸素・虚血 / ホルモン / 生理活性物質 / 血液脳脊髄液関門 / 培養細胞 / モデル細胞 / プロラクチン / 脈絡叢 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,血液から脳脊髄液への様々な生理活性物質の選択的移行のメカニズムを解明するために,剖検試料および培養細胞を用いて血液脳脊髄液関門モデルを構築して生理活性物質移行のメカニズムを明らかにすることにある.我々は,剖検試料におけるプロラクチンが特定病態下において,血液と脳脊髄液との間で,大きく濃度変化することを明らかにした.具体的には,血中プロラクチン濃度は,各種死因群において,ほぼ臨床基準値内にあるるものの,窒息死,具体的には低酸素・虚血性病態においては,他の死因群に比較して高値を示すことを明らかにした.そのメカニズムを明らかにするため,まず,剖検例における下垂体中のプロラクチンのmRNAレベルを測定したものの,死因間の差はなかった.そのことから,低酸素・虚血性病態において,脳下垂体からのプロラクチンの分泌量が増加するのではなく,血中に分泌された一定濃度のプロラクチンが,低酸素環境下において,脈絡叢の働きで,脳脊髄液中への透過性が,亢進することが推測された.そこで,我々は,培養細胞を用いて,血液脳脊髄液関門モデルを作製した.このモデルは,フィルターを境に上層に血管上皮細胞を培養し,下層に脈絡叢細胞を培養,上層を血液層,下層を脳脊髄液層として,低酸素下におけるプロラクチンの変化について検討した.その結果,低酸素下5分から下層,つまり脳脊髄液層のプロラクチン濃度は上昇し,低酸素下30分では,5分に比較して5倍以上のプロラクチン濃度を示した.一方,一般培養下(非低酸素下)におけるプロラクチンの変化は,全く認められなかった.低酸素・虚血病態における剖検例の脈絡叢を抗プロラクチン抗体で免疫染色したところ,陽性所見が認められたことから,低酸素下の脈絡叢において,生理活性物質の選択的物質移行が行われているものと考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現時点において,前述の如く,低酸素病態において,脈絡叢が選択的物質移行を行い,プロラクチンの血液から脳脊髄液への移行を亢進させていることが明らかとなった.さらに免疫組織化学的検討において,低酸素下において,プロラクチンが脈絡叢細胞に保存された後に,脳脊髄液中に放出されている可能性も考えられた.培養細胞においてプロラクチン産生細胞単独培養実験において,ラット下垂体であるSDR-P-1D5細胞およびブタ下垂体細胞であるMSH-P3細胞を低酸素状態において,分泌量の変化を確認した.その結果,SDR-P-1D5細胞およびMSH-P3細胞ともに低酸素下10分において産生プロラクチン濃度は最高値を示し,その後の産生は低下する結果となった.低酸素状態で上昇することが知られているVEGF(Vascular endothelial growth factor)も,プロラクチンの産生と同じ経過となり,低酸素下10分において,VEGFの産生が最高値を示し,その後は,培養経過時間に従い,低下する結果となった.培養細胞の形態そのものは,一般培養(非低酸素下)では,変化はほぼ認められないものの,低酸素下では僅か10分程度で,培養細胞が球形状に変化する傾向が観られ,低酸素下30分では,球形状変化の割合が増加した.今後はなぜ低酸素になるとプロラクチンを血液から脳脊髄液中に移行させる必要があるのかを検討する必要があるものと考えられ,プロラクチンの神経細胞への作用について検討する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
低酸素状態において,血液中から脳脊髄液中へのプロラクチンの移行が,脈絡叢を通して,移行する意義について検討することとしている.まず,予備的検討として,培養神経細胞中にプロラクチンを投与したところ,神経突起の伸長が,プロラクチン非投与群に比較して,大幅に亢進していることが明らかとなった.また,低酸素培養下において神経細胞にプロラクチンを投与すると死滅する細胞の数の低下が認められた.それら結果から,プロラクチンなどの生理活性物質は,血液から脳脊髄液へ様々な環境に応じて選択的に移行しているものと推測された.特に,脈絡叢における血液脳脊髄液関門の機能を解明することは,例えばプロラクチンの低酸素環境下における中枢神経保護作用を基盤として,脳内における神経発達に寄与している可能性があることから,上記実験内容を詳細に,具体的には,酸素濃度(低酸素下・非低酸素下),培養時間,プロラクチン濃度における神経突起の伸展の推移およびそのメカニズムについて,明らかにしていく予定である.さらに実際に人の剖検例において,同様の変化が認められるかMBP(ミエリン塩基性蛋白)などを用いて,低酸素下における神経細胞の変化とその意義について検討していく予定である.
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