研究課題/領域番号 |
20K10559
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
石川 隆紀 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (50381984)
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研究分担者 |
谷 直人 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (00802612)
池田 知哉 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (10620883)
渡邊 美穂 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 特任助教 (20845317) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 血液-脳脊髄液関門 / 中枢神経刺激薬 / 血管内皮細胞 / 脈絡叢上皮細胞 / カフェイン / 神経興奮誘発物質 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,「法医病態診断における血中から脳脊髄液への生理活性物質や薬物の選択的移行機序の解析」を行うことにある.本研究において,今回は,若年者によるエナジードリンクの摂取に伴う,エナジードリンクと中枢神経刺激薬を相互に使用する症例について注目されていることから,そのメカニズムを明らかにすることに中心に研究を施行した.特に,血液-脳脊髄液関門(BCSFB)におけるカフェインの動態については明らかにされていないことから,剖検例とモデル培養細胞を用いて,BCSFBにおけるカフェインと薬物との関連性について検討した.【方法】剖検例を,検出薬物に基づいて分類した.さらに,作製したBCSFBモデル培養細胞の血管内皮細胞側に,カフェインと神経興奮誘発物質である4-アミノピリジン(4-AP)を投与し,4-AP濃度と投与後経過時間ごとに脈絡叢上皮細胞側(下室)に貯留したカフェイン濃度を測定した.さらに,培養実験で用いた血管内皮細胞と脈絡叢上皮細胞内のカフェイン濃度について,4-AP 0 ngおよび1000 ng添加後,1時間と6時間の時点における濃度を測定した.【結果と考察】剖検例における検討において,カフェインおよび覚醒剤検出症例では,脳脊髄液に比較して血中のカフェイン濃度が高値を示した.BCSFBモデルを用いた培養実験では,4-APの濃度と投与後経過時間に依存して,下室に貯留したカフェイン濃度が低値を示した.BCSFBモデルにおいて培養された血管内皮細胞と脈絡叢上皮細胞内のカフェイン濃度は,脈絡叢上皮細胞で高く検出される傾向にあり,特にカフェインに加えて,4-AP 1000ng添加後6時間の時点における脈絡叢上皮細胞内のカフェイン濃度が有意な高値を示した.それらの結果から,中枢神経刺激薬とともにカフェインが脈絡叢を通過する場合,カフェインの吸収が抑制されることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究内容において,実際の剖検例から得られたデータをもとに,血液-脳脊髄液関門(BCSFB)のモデル培養細胞の作製を試みた.その結果,BCSFBモデル作製に成功し,実験を行うことが可能となった.その結果,カフェインおよび中枢神経刺激薬(4-AP)の乱用は,BCSFBにおけるカフェインの吸収を抑制することを明らかにすることができた.また,カフェインは,脈絡叢上皮細胞側に貯留されることも同時に明らかにすることができた.本研究結果から,生理的に同じ作用を示す物質がBCSFBを通過する場合,どちらかを中枢神経側に流れないようにする抑制作用が存在することが明らかとなり,中枢神経を過度に刺激しないようBCSFBには,中枢神経保護に働く役割があることが,明らかとなった.そのことは,当初予定していた実施計画よりも早く進んでおり,次年度のBCSFBの形態学的変化に続くものと考えられた.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から,同じような中枢神経刺激的役割を持つ2種類の薬物を同時に投与した場合,血管内皮細胞よりも脈絡叢上皮細胞側に生理活性物質1種類が取り込まれ,過度の中枢神経刺激作用を抑制する可能性が示唆された.最終年度において,この脈絡叢上皮細胞と血管内皮細胞の形態学的変化を明らかにするため,光学顕微鏡レベルでの変化に加えて,微細形態学的変化を明らかにするため電子顕微鏡を用いて,特に脈絡叢上皮細胞側の変化について検討を行い,培養実験結果や実際の剖検結果と比較検討を行う予定である.その結果,血液-脳脊髄液関門において,どの細胞が薬物選択制を担うのかを形態学的に証明することができ,これまでの研究を形態学的観点から証明することができるものと考える.
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