研究実績の概要 |
心肥大は心臓性突然死の危険因子であることが臨床的に知られているが、解剖学的に明確な心肥大重量は確立されていない。そこで初めに、現代日本人における心肥大重量の定義付けを行った。2017年から2019年に東京都監察医務院で解剖された6,295症例のうち、腐敗や損傷の影響が少なく、死亡状況と組織学検査等から確定診断がついた3,534症例(男性2,454例、女性1,080例、0-101才)のデータを解析した。対照群において、20才までは年齢と直線的に相関した心重量の増加を認め、成人での平均心重量は、男性385g、女性320gであった。ROC曲線解析では、男性は407g(オッズ比4.18)、女性は327g(オッズ比2.64)をカットオフとして循環器疾患による死亡率が上昇することが明らかになった。また、ロジスティック回帰分析では、心重量は体格指標であるBMIよりも有意に心臓性突然死に寄与することが示された。 この心重量閾値をもとに剖検例から心肥大症例を選択し、心臓組織からタンパク質を抽出してCa制御に関わるタンパク質のウェスタンブロッティングを行った。細胞膜のCav1.2は心肥大例で増加しているものの、生理的心肥大と致死性心肥大で有意な差はなかった。また、小胞体膜のRyR2やPLNについては、安定したバンド検出が行えなかった。一方、これらのタンパク質をリン酸化するCaMKIIについては、心肥大症例で pCaMKIIが増加していた。CaMKIIによる自己リン酸化およびCa制御タンパク質のリン酸化が、生理的心肥大から致死性心肥大への移行に寄与する可能性が示された。
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