研究課題/領域番号 |
20K10565
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
垣本 由布 東海大学, 医学部, 准教授 (40734166)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 心肥大 / 高血圧性心不全 / 虚血性心不全 / 突然死 / プロテオミクス / 心臓組織 |
研究実績の概要 |
今年度は、細胞膜成分を分離することなく、心臓左室壁の心筋層から抽出した総タンパク質を用いて解析を行った。高血圧性心不全3例、代償性心肥大3例、心肥大のない健常3例の質量分析では、9,581ペプチド、1,551タンパク質を同定した。主成分分析では、高血圧性心不全群が他の2群と異なるタンパク質発現プロファイルを呈した。群間差を認めた140タンパク質のうち、とくにMYH7、MYH9、MYH11、MYOM3、MYL3、ACTC1といった細胞骨格タンパク質が高血圧性心不全群で健常群の5-32倍と著増していた。遺伝子オントロジー解析では、高血圧性心不全群において、心筋収縮や細胞間接着、プロテアソームに関わる遺伝子発現に変化を認めた。 さらに、虚血性心不全例などを加え、心肥大を伴う突然死10例、代償性心肥大10例、心肥大のない健常10例についてqPCRを行った。心肥大を伴う突然死では、MYH7、MYL3、ACTC1が健常群の2-3倍有意に増加していた。一方、代償性心肥大では、ACTC1は突然死群と同程度増加していたものの、MYH7とMYL3のmRNA増加は中程度にとどまっていた。以上から、代償性心肥大から致死性心肥大に至る過程で、細胞骨格タンパク質が段階的に増加することが明らかになった。 また、組織学所見としては、突然死群と代償性心肥大群間に心筋肥大や線維化の差はなかったことから、組織学変化が表出する前段階で、細胞骨格タンパク質の密度が増加することが突然死の誘因となると考えられた。また、タンパク質とmRNAレベルでの検出量に差があったことから、ユビキチン‐プロテアソーム系などのタンパク質分解能力差が突然死の素因となっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心臓組織の網羅的解析により、細胞骨格タンパク質の発現増加が突然死に寄与することを明らかにできた。肥大型心筋症などの先天性心筋症では、細胞骨格タンパク質の遺伝子変異が突然死の誘因となることが知られているが、高血圧性心不全などの後天性心疾患においては、細胞骨格タンパク質の増加が突然死の誘因となる、という新しい知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの質量分析とqPCRは検体の均一性を保つために心臓左室壁の中間層を用いて行ったが、次段階では左室壁の全層組織を用いて各タンパク質の発現が内縦走筋、中輪状筋、外縦走筋の3層で変化するかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
心臓組織の免疫染色およびin situ hybridizationの条件検討に時間を要している。また、研究内容を総括した成果発表を予定している。
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