研究実績の概要 |
解剖時に採取した心筋から抽出したゲノムDNAを試料とし,次世代シークエンサーを用いて心疾患関連遺伝子および薬剤代謝関連遺伝子の変異解析を行った.死因が心臓突然死と思われる15例から試料を採取した.年齢は0歳から90歳であり,男性11例,女性4例,2歳以下の乳幼児9例を含んでいる.心疾患関連遺伝子はThermo Fisher Scientific社のIon AmpliSeq Designerツールを用いて282遺伝子,計5404 SNPを一度に増幅するプライマーセットを設計・作成した.また,薬剤代謝関連遺伝子の解析にはIon Ampliseq Pharmacogenomics Panelによる119遺伝子,137 SNPを解析するプライマーセットを用いた.増幅後,Ion Chef Systemで前処理を行い,Ion GeneStudio S5を用いてシークエンス,Plug-inソフトウェアおよびクラウドのIon Reporterを用いて多型解析を行なった.心疾患関連遺伝子解析では,標準ヒトゲノム配列hg19と比較したところ,それぞれの試料においてSNPが570から933個(平均769.5個)検出された.次にそれらのSNPをClinVar (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/clinvar/)データベースを用いてフィルタリングしたところ,平均8.7個の病原病原性疑いがあるSNPが検出された.これにより心疾患関連遺伝子の解析は突然死の死因究明に有効であったと考えられる.次に薬剤代謝関連遺伝子の解析では137SNPタイピング結果が得られているが,中でも特にCYP1A, CYP2C9, CYP2C19, CYP2D6, CYP3A4遺伝子は薬物代謝に重要な役割を担っており,この部分のSNPに関しては,それぞれの処方された薬物と照らし合わせて判断する必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
来年度は研究の最終年度にあたることから,残りの解析,つまり,心筋のメチル化解析とmiRNAの解析を行う予定である.まず,心筋から抽出済みのDNAを用いて,ホールエクソンに近いメチル化解析を行う.これには高性能の次世代シークエンサー(MethylationEPIC BeadChip Kit, iScan System, GenomeStudio Software)が必要となるため,対照試料を含めた8サンプルを外注で解析することにする.その結果得られた情報から突然死例に特徴のあるメチル化部位をいくつか特定し,心臓突然死メチル化マーカー候補とする.次に当大学にある次世代シークエンサー(Ion S5 GeneStudio System)を用いて他の試料を解析し,試料数を増やして心臓突然死例特有のメチル化マーカーを確立する.miRNAの解析については,既報の情報からカテコラミン関連のmiRNAの中から12種, miRNA-1, miRNA-21, miRNA-23a, miRNA-125a, miRNA-133b, miRNA-135b, miRNA-208, miRNA-210, miRNA-514, miRNA-548, miRNA-562, miRNA-624を選択し,解析することとする.心筋からsmall RNAをキットで抽出後,専用のプライマーで増幅,プロトコルに従ってライブラリーを調整し,on S5 GeneStudio Systemにより解析を行う. 令和3年度に獲得したゲノム変異情報を加えて,計3つの情報から心臓突然死に対して多角的なアプローチを行うことで,これまで困難であった心臓突然死例の診断方法を確立する.
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