研究課題
虐待による重症頭部加速度損傷の所見の一つに出血性網膜ひだがある.頭部加速度によって硝子体が振盪され,網膜が牽引されることで生じていると考えられている.本研究は,重症頭部加速度損傷で視神経が牽引される際に,眼軸長が変化するかどうかを検討し,出血性網膜ひだの発生機序を再確認するものである.研究期間中の高度腐敗,焼死,頭蓋内出血を除いた72例の解剖症例,143眼で2回眼軸長計測ができた.さらに,眼球虚脱症例を除くため,14歳以上で,通常時の眼軸長が20 mm以上かつ前房深度の標準誤差が0.05 mm未満の症例66例(17~92歳,中央値63歳,男性41例,女性25例),126眼について検討を行った.死後経過時間は8~83時間(中央値36時間)であった.眼軸長について通常時,牽引時の比較を行ったところ,二群間に統計的有意差を認めなかった(Wilcoxonの順位検定 P=0.8371).また,眼軸2回測定の間の眼球虚脱の影響がないかを調べるため,前房深度についても同様に通常時,牽引時の比較を行ったところ,二群間に統計的有意差を認めなかった(Wilcoxonの順位検定 P=0.8902).次に,牽引による眼軸長の変化について後部硝子体剥離の影響を調べるため,通常時と牽引時の眼軸長差と後部硝子体剥離の有無について比較を行った.後部硝子体剥離の有無は眼軸長差に影響していなかった(Mann-Whitney U検定 P=0.9835).最後に2歳以下で前房深度の標準誤差が0.05 mm未満の症例(4例8眼)の眼軸長について,通常時,牽引時の比較を行ったところ,二群間に統計的有意差を認めなかった(Wilcoxonの順位検定 P=0.6406).本研究に於いて,視神経の牽引によって眼軸長が伸びることはなかった.出血性網膜ひだは硝子体の振盪によって網膜が牽引されることで生じていると考えられた.
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Toxicological Research
巻: 39 ページ: 409-418
10.1007/s43188-023-00178-0