看護師の国際移動は1990年代から活発化し、日本においても2008年のEPA(Economic Partnership Agreement: 経済連携協定)による看護師・介護福祉士の導入により外国人医療福祉職は今後も増加すると考えられる。国家間の経済格差により、発展途上国から先進国に移住する労働者が難易度の低い職業に就くことを「下方移動」と呼ぶ。外国人看護師・ケアワーカーの受入れを早くから行っている米国、英国、カナダ、オーストラリアではこれまでに数々の研究が行われており、母国で看護師資格を持つ者がドメスティックヘルパーや看護助手として就業する実態が報告されている。EPAでは母国で看護師資格を持つ者を介護福祉士として雇用するというスキームがあり、本研究は日本における下方移動の実態を明らかにすることを目的とした。母国で看護師資格を持つEPA介護福祉士は、日本の介護施設でのキャリアを高齢者ケアのスキルを積むことと捉え、将来、高齢社会となる母国に還元できると考えている一方で、日本における介護福祉士としてのキャリアに展望を見出しにくいと感じていた。海外における看護師の下方移動に関する研究の対象者と比較すると、日本に在住するEPA介護福祉士は年齢が若く、移住の理由は「家族のため」よりも「自身の将来のキャリアのため」であることが多い。未婚女性では、移住先での自身のキャリアや自由な生活と母国の親族からの結婚への圧力という社会規範の間に葛藤を抱えているが、女性のイスラム 教徒は異教徒と結婚することが困難であり日本で国際結婚により定住する可能性が低いことも帰国の要因のひとつとなっていると考えられる。EPA介護福祉士を対象とした下方移動の研究に際しては対象者の属性を考慮し関連要因の分析をすることの必要性が示唆された。
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