研究課題/領域番号 |
20K10820
|
研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
府川 晃子 兵庫医科大学, 看護学部, 教授 (30508578)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | がん看護 / 肺がん / 高齢がん患者 / がん薬物治療 |
研究実績の概要 |
我が国では人口の高齢化に伴い高齢者の肺がん罹患率が上昇している。特に肺がん治療の分野では早期から遺伝子変異に対応した分子標的薬の開発が進められ、高齢患者でも外来で分子標的薬の内服治療を受けることが一般的になっている。しかし、外来で分子標的薬の内服治療を受ける高齢患者は、多忙な外来診療の場面において適切な看護支援を受けられていない。抗がん薬の内服による治療を受けている患者向けの、薬剤に関するパンフレットなどの教育的資料は散見されるが、既存の資料や教育プログラムの多くは患者の知識を向上させることをめざしており、高齢患者のニードに合ったものとは言えない。 本研究では、研究者が開発した「外来で分子標的薬内服治療を受ける高齢肺がん患者の自己管理支援プログラム」を臨床適用し、プログラムの有効性および有用性を評価し、看護師が患者の個別性に合った支援を効果的に実施できるよう、外来看護の質向上を目指すことを目的としている。本プログラムは先行研究である高齢肺がん患者からのインタビューをもとに作成しており、患者が自身の望む生活や自分らしい生き方を看護師とともに振り返りながら、生活に合った自己管理の方法を考えるものであり、高齢患者の現状に即した内容となっている。さらに2019年から広がったCOVID-19感染による高齢者の重症化リスクが高いことは知られており、原疾患や治療、副作用以外にも不安を抱えることになった肺がん高齢患者が安心して安全に治療を続けていくための、きめ細やかな支援の助けになると考える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本プログラムにおける介入は、治療開始2週間以内から開始後2ヶ月までの3回、外来での面談を中心に行う。開始直後の時期から、看護師は患者とともにこれまでの生活を振り返り必要な情報提供を行い、治療の経過進行に合わせて患者の情報を補いながら生活を軌道に乗せていく。患者が実際に有害事象による症状を体験し始める可能性が高い2ヶ月後の時期までフォローを行い、患者が望ましい生活を送れているか振り返る内容である。これにより、問題の有無に関わらず患者は看護師とともに具体的な対策を考えることができ、自己管理を継続できると考えた。そこで本研究では3回の介入時と、介入終了後の「治療開始3ヶ月後の外来受診時」に終了後の面談と質問紙調査を行い、QOL尺度、不安・抑うつ尺度、ソーシャル・サポートの評価、有害事象の評価を行う計画としている。 プログラムを活用した介入のプレテストとして、外来に通院中の高齢肺がん患者を対象として研究対象者のピックアップし、2020~2021年度に5名の対象者にアクセスした。うち2名は最終的に研究参加を希望されず、1名は開始前、1名は第2回の介入前、1名は第3回の介入前に治療中断となったことで介入を中止した。介入を行った事例では、自発的に自宅での生活の様子をメモして持参したり、「自分では見られない症状を確認してもらえてよかった、次も見てほしい」と話すなど、介入を継続することで症状マネジメントを促すことができる可能性が示唆された。
|
今後の研究の推進方策 |
研究を開始した2020年度から2022年度の時期は、COVID-19感染拡大の影響により呼吸器内科外来での介入が困難となった。また、対象者である高齢肺がん患者は感染に対して脆弱であり、関心を持っていただいても参加を差し控えられたケースもあったことなどから、プログラムを完遂できた事例はなかった。しかし途中まで介入を実施できたケースでは、患者の自己管理への関心も高まり効果があった可能性が示唆された。 本プログラムを作成するにあたり、実施したインタビュー調査の中では、高齢者のセルフマネジメントを支えるには、医療職者や家族介護者、友人などのソーシャル・サポートの活用が不可欠であることが明らかになっている。しかし2020年以降はCOVID-19の影響から、介入できた事例でも「感染予防のために社会的交流を減らしている」などの対処を行っており、患者のセルフマネジメントに関する現状やニーズが変わっている可能性が示唆された。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2022年度も引き続きCOVID-19の影響で呼吸器内科外来での介入研究が難しく、研究対象者への実際の介入件数もなかったことから、研究参加者への謝金や消耗品の購入などが生じなかった。また、海外学会に参加し研究発表や情報収集を行う予定であったが、渡航や宿泊に関する費用も使用しなかった。次年度以降、実際の介入を開始するにあたり謝金や消耗品費用、印刷物の作成等による費用が生じると考えられる。 また、COVID-19パンデミックを経て、肺がん高齢患者のセルフマネジメントやそれを支えるソーシャル・サポートのあり方が変化している可能性が考えられる。がん患者がコロナ禍で必要としている具体的なサポート、特に高齢がん患者の特徴を明らかにするための調査を行い、プログラムのブラッシュアップする必要があると考える。
|