近年、無痛分娩を巡る母子の死亡や重度後遺障害発生等の重大事故が次々に報告され、国民の不安が高まっている。厚生労働省は、無痛分娩の安全性向上のためにインシデント・アクシデントの収集・分析・共有の実施を行い、発生した個々の有害事象ごとに原因や背景要因を分析し再発防止策を講じるよう医療者に求めている。このように、医療事故の再発を防止するためには過去の事例を正しく認識し、それを教訓として学ぶ姿勢をもつことが重要である。医療事故判例を分析するのもその一つであり、医療者間が複雑に絡み合う中で生じた過失の存在が現在の医療水準に照らしどのように認定されているのか等、検討を加え課題を見出すことは安全・安心な医療を実現するために非常に重要なことだと考える。本研究は、医療事故判例を再発防止の観点から、特に助産師に焦点を当て分析し、助産師教育や卒後教育に役立てることを目的とした。 研究1では、過去20年の医療過誤裁判から助産師に関する31件の事例を収集し、再発防止対策を検討した。主な争点は医師への報告義務や異常時の対応義務などであり、助産師の証言や記録の重要性が明確に示された。 研究2では、分娩に関わる医療事故を経験し勝訴判決を受けた被害者3名を対象に面接調査を行い、被害者の視点から教材に反映させる取り組みが行われた。 インフォームドコンセントの重要性などの対策が提案された。 研究3では、医療事故判例の実践的活用に向けた研修を開催し、教材の評価や医療事故に対する理解の深化が確認された。しかし、医療事故に対する向き合い方や実践への結びつけに改善の余地があることが示唆され、具体的な改善策が検討された。 これらの研究成果は、医療事故判例の公開や教育システムの構築に貢献し、安全で信頼性の高い医療を実現するための一歩となると考える。
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