本研究の目的は、子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)接種において、効果的な意思決定を支援する情報提供システムを構築することである。2021年は、情報ニーズを探索するために、HPVワクチン接種の積極的勧奨の差し控え期間に接種対象となった娘を持つ母親にインタビュー調査を実施した。 分析の結果、4つの分析テーマが生成された。テーマ1の「意思決定の促進要因」では、【子宮頸がんの罹患が及ぼす重大さ】【HPVワクチン接種のリスクとベネフィットの対比】【知識や情報を得るネットワークとリテラシー】【接種への決断に向けた最後の一押し】、テーマ2の「意思決定の阻害要因」では、【子宮頸がんに対する不十分な知識と低いリスク認知】【不確実な情報がもたらすHPVワクチンに対する否定的イメージ】【HPVワクチンへの誤解や不信感】【届かない情報】【娘と対話することの迷いと困難】【親として迫られる決断までのタイムリミット】のカテゴリーが抽出された。テーマ3の「意思決定過程に生じる心の揺らぎ」では、【後悔のない決断は自己責任】【一般的知識と娘への副反応に対する感情の葛藤】【ママ友関係が崩れることへの不安】、テーマ4の「求めている支援」では【専門家からのエビデンスのある情報】【当事者からの経験談】のカテゴリーが抽出された。 2022年度よりHPVワクチンの積極的勧奨が再開される。2年間の研究では、勧奨再開前のHPVワクチン接種の意思決定に影響する要因を明らかにした。この結果をもとに、接種対象者やその保護者のワクチンに対する考えや情報ニーズの変化などに注目した継続的な調査が今後可能となる。これにより我が国の文化や価値観、8年間の積極的接種勧奨の差し控え等の情勢を反映したHPVワクチン接種の意思決定に向けた支援につなげることができ、さらには我が国の様々な分野での意思決定支援の手掛かりになることが期待できる。
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