研究課題/領域番号 |
20K10926
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
亀田 直子 摂南大学, 看護学部, 講師 (70737452)
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研究分担者 |
家高 洋 東北医科薬科大学, 教養教育センター, 教授 (70456937)
池田 友美 摂南大学, 看護学部, 教授 (70434959)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 子ども / 重症心身障害 / ケア提供者 / ケア / 生活 / 看護 / 質的研究 / 研究方法 |
研究実績の概要 |
研究目的は①超重度の重症心身障害児のケア場面でのケア提供者の経験を開示すること②ケア提供者の不確かさを含む経験を開示するための研究方法開発である。これらのことより、超重度の重症心身障害児の生活を支えるケア向上に資することを目指している。 2021年度も引き続き新型コロナウイルス感染症により研究フィールドでの活動不可となり、収集済みのデータ分析を継続した。データの背景と結果の概要は2020年度実施状況報告書で提示した。 2021年度は、超重度の重症心身障害児のケア場面におけるケア提供者の経験を明らかにする中で起こったケア向上に資する効果に焦点を当てた。本研究の参加者は超重度の脳性麻痺のある12歳児(B君)と看護師、理学療法士、保育士、生活支援員であり、ケア提供者を対象とした2回の自由記載式質問紙調査(回答数35通)、3回の参加観察(のべ21名参加)、2回のグループインタビュー(のべ14名参加)を分析した。結果、ケア提供者たちはB君の障害の程度や身体状況に大きな変化はないと考えていた。一方でB君の動きの解釈に関するケア提供者間での違いや同じケア提供者における変化がケア提供者の語りにより開示され、議論された。ケア提供者たちは自身の経験を言葉で表現し、B君のそれぞれの動きが目的を持っているかどうか改めて疑問に思い、振り返ることによって、B君のケアを再考していた。本研究は、超重度の重複障害のために言葉や身振りで意思を表現する能力がないと捉えられていたB君のケア場面における、彼の意図的な動きとその意味を捉えることに関するケア提供者たちの経験を再考する機会をケア提供者に与えていた。 これら本研究の中で起こった超重症心身障害児へのケア向上に資すると考えられた効果とその効果を表すデータを2022年4月の国際学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の目的は①超重度の重症心身障害児のケア場面でのケア提供者の経験を開示すること②ケア提供者の不確かさを含む経験を開示するための研究方法開発である。2021年度は2020年度に引き続きコロナ禍によりフィールドでのデータ収集を実施できなかったため目的①に向かって研究を推進することができなかった。目的②に関して、我々は参加観察に加え、研究者の解釈を補助し、解釈の妥当性を示すデータとして質問紙やグループインタビューを併用する研究方法を提示した。 2021年度、特に超重度の重症心身障害児のケア場面における、ケア提供者の経験を明らかにするプロセスの中で起こったケア向上に資する効果に焦点を当てて分析を行った結果、この研究課題で開発してきた研究方法自体が、ケア提供者自身に超重度の重症新障害児のケアに関わる変化をもたらしていたことを開示できた。 コロナ禍での看護職者育成の重要性を再認識し、「医療に貢献できる看護職者の育成を」との強い要請にこれまで以上に接した。病院実習等、実習参加人数や実習期間にかかる制限が多い中での看護職者育成方法開発/工夫/運営にかかる業務に、昨年度から引き続き労力を要した。 国際学会での発表に至ったが論文投稿には至らなかったこと、パンフレット完成に至らなかったことから、進捗状況は「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度もコロナ禍による影響を予測し、これまで収集してきたデータの分析、方法論的考察、研究成果に基づくパンフレット作製を進め、感染症の収束を待って、超重度の心身障害児の傍らでの参加観察を再開し、ケア提供者との協働学習会を開催したい。 ワクチン接種が進んだものの、新型コロナウイルス変異株による感染拡大の影響は2022年度に入った現在も続いている。研究対象者変更は研究テーマから考え難く、一方で超重度の重症心身障害児の健康・安全が第一優先であることは倫理的にも明らかである。感染拡大収束時には研究フィールドでの活動を再開すべく準備しておく。 看護師育成にかかるコロナ禍での対応にこれまで労力を要し、研究活動時間確保がかなり難しかったが、学生、臨床現場の方々、我々がコロナ禍での病院実習運営に慣れてきたこと、大学での対面授業、遠隔授業、ハイブリッド授業への急遽の変更に対応する力はついてきたため、研究活動時間そのものをまず確保する。 これまでに収集できた質問紙/グループインタビュー/参加観察によるデータの分析・執筆・研究方法開発を進める。解釈学・現象学の専門家であり、看護学領域での質的研究に関する論考を進めている分担研究者(家高)との連携をさらに強化する。現象学の強みである『これまで見過ごされてきた事象を明らかにすること』を活用し、ことばで表しがたいケア提供者の経験/実践知を開示する。読み手の経験と記述された事象とが繋がり、読み手一人一人の内面に変化をもたらし得る分厚い記述を行う。小児看護学・障害児看護・障害児教育の専門家である分担研究者(池田)と協働し、これまでの研究成果に基づくパンフレットを完成させ、学習会等で活用する。これらのことにより『超重度の重症心身障害児の生活を支えるケア向上』を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、学会開催地での学会発表中止、研究フィールドでの活動が延期となり、旅費、研究参加者への謝礼による支出が無く、次年度使用となった。 【使用計画】2022年度はコロナ禍、海外情勢の悪化の影響により、①海外への学会参加は引き続き見送る状況になるだろうこと、国内開催学会も一部はWeb開催となるだろうこと、②研究フィールドでの活動に制限がかかるだろうこと、③学外分担研究者との打ち合わせもオンラインでの実施可能であること等から、旅費は大幅に減額とした。減額した予算は、文献複写費、書籍代、論文投稿のための英文校正費などに充てる。
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