研究課題/領域番号 |
20K10941
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
佐保 美奈子 (井端美奈子) 大阪府立大学, 看護学研究科, 准教授 (80331742)
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研究分担者 |
小西 幸男 甲南大学, 共通教育センター, 准教授 (20411564)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 男性へのセクシュアリティ教育 / 男子を育てる母親の困難感 / ポリヴェーガル理論 / 包括的セクシュアリティ教育 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、思春期・青年期男子が性成熟現象に適切に対応し、性行動開始による問題を予防し、心の成熟・社会的生活適応をスムースにすることである。研究課題の核心をなす学術的「問い」は、思春期・青年期男子の【①第2次性徴・性行動に関する課題 ②心の成熟・社会的適応に関する課題をどのように克服するか】である。妊娠・出産・性感染症予防に偏った内容ではなく、むしろ男子の性の理解に重点を置くところが新しい試みである。研究2年目は、以下の3点に取り組んだ。 1.大学公開講座の企画・実施 大阪府立大学において子育て支援研究会を5回開催し、9月に甲南大学秋季公開講座秋期公開講座 「人生100年時代、生から死までを明るくデザインするために 第1回:愛ある性から出産へ」について講義をした。11月にポリヴェーガル理論の実践家を招いて講演会をオンラインで開催した。 2.行政の男女共同参画事業や子育て支援への関わり:大阪府男女共同参画推進会議で「DV防止に関する基本計画」の策定に向けての意見をまとめ、堺市男女共同参画推進会議で啓発イベントの企画実施、藤井寺市男女共同参画推進課からの依頼でビデオ教材「子どもに伝える性教育の基礎知識①②を作成した。生野区子育て支援課からの依頼により生野区こども地域包括ケアシステム大交流会で「性について考える」というテーマで講演をした。 3.セクシュアリティ教育教材の検討・作成:小冊子「胸の鼓動を聞いてごらん」、「自分のペニスで大丈夫」を作成した。おつきあいのマナーかるた(デジタル版)、おつきあいのマナーかるた(男子版)の検討を引き続き実施した。 4.中学・高等学校への出前講義の実施:大阪市立港中学校、大阪府立登美丘高校1年生、大阪緑涼高校1年生、大阪商業大学高校1年生・2年生、近大泉州高校1年生・3年生、大阪府立堺東高校、大阪府立貝塚高校、に対面講義・オンデマンド講義を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍で、大学の本務である教育方法が感染拡大状況によって、対面講義から急遽オンラインやオンデマンド講義に変更になり、その対応に追われた。また、学会や出前講義や講演が延期~中止になったり、ワークショップの中止など大幅な計画を変更をしたが、幼児から思春期までの男児を育てる母親の困難感にフォーカスした子育て支援研究会を継続することができた。 泌尿器科専門医、精神保健福祉士、作業療法士、助産師など子どもに関わる専門家が集まり、母親達は安心して気軽に困難な状況を共有することができた。そのなかで「ポリヴェーガル理論」に出会いうことができた。従来の心理学のパラダイムをさらに一歩進めた、神経生理学的なメカニズムを土台にした理論を用いて、生きづらい子どもの理解につなげる。 行政との関わりでは、大阪府・堺市・藤井寺市の男女共同参画部門への意見のとりまとめなどで、DV防止のための予防啓発のために特に男子への性教育を充実させることを提言できた。 若者の将来の夢を育むようなセクシュアリティ教育をおこなうことで、アダルトサイトからの誤った情報に適切に対処できる知識を提供したい。検討資料として、ウェブ調査内容を引き続き検討する。男子の性についての正しい情報を検討しながら、大学公開講座「子育て支援研究会(年5回シリーズ)、中学・高校出前講義(年10校)などで発信した。これまでに開発したおつきあいのマナーかるたをデジタル化する試みを情報科学分野の教授と検討した。 このような実践の中から、ホームページの企画・ビデオ教材の作成・小冊子の作成などのアイデアがおのずと沸き起こってきたので、後半の2年間で成果として提出できるようにしたい。
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今後の研究の推進方策 |
3年目は前述の研究実績1,3,4について継続して取り組みながら、新たな取り組みとして日本財団助成事業「包括的性教育実践助産師の育成」プロジェクトメンバーとして性教育を実践する助産師育成プログラムの内容検討に取り組む。思春期はヒトが人間として成熟する人生の最も重要な時期といってよく、適切で効果的なセクシュアリティ教育が強く求められている。特に、思春期・青年期男子の心とからだの急な成長を後押しするような教育が現在は不足しているため、男子の自尊感情を育てるセクシュアリティ教育が求められている。 ユネスコ編(2020)「改訂版国際セクシュアリティ教育ガイダンス、科学的根拠に基づいたアプローチ」で、「これまで、男性性に関する議論はセクシュアリティ教育プログラムではあまりされてこなかった。なぜなら一般的にそれらが問題になりうるとは思われていないからである。しなしながら、男子もセクシュアリティに関して自分たちのニーズや疑問は解消されていないと感じている(UNESCO,2014)。」とあるように、男子向けのセクシュアリティ教育内容をプログラムに盛り込むことが重要である。 1,2年目に子育て支援研究会や男子の育児本、ポリヴェーガル理論からの学びを整理して男子のセクシュアリティ教育に必要な情報を発信するためにホームページ作成に着手する。男女の解剖生理学的な特徴を踏まえ、特に男子のセクシュアリティをデリケートに扱いながら、男女ともに他者へのリスペクトを育むセクシュアリティ教育を探求しつづける。 6月に(一社)性と健康を考える女性専門家の会主催のシンポジウムで「セルフケア・セルフプレジャーから女性主導のセックスへ」について講演し、8月に全国性教育研究大会(基本テーマ:人間形成を基盤とした性教育をすべての子どもたちに)で学びを深めて、本研究に取り入れたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍において、すべての学会がオンライン開催になり、交通費や宿泊費が必要なくなったこと。研究班会議はオンラインで開催したため、交通費が必要なくなったこと。ウェブ調査はさらに内容を吟味する必要が出てきたので、次年度以後に企画実施することになった。 翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画については、ホームページ作成、などを業者に委託する予定である。ビデオ教材の作成・小冊子の作成にも取り組む。男子の子育て支援研究会については、コロナの感染状況を見ながら、オンラインでも開催する方向で検討する。男子用おつきあいのマナーかるたについては改訂版を検討する予定であったが、かるたのワークショップについては3密が避けられないので、別の方法を検討する。
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