研究課題/領域番号 |
20K11134
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
渡邉 賢治 自治医科大学, 看護学部, 助教 (50733622)
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研究分担者 |
春山 早苗 自治医科大学, 看護学部, 教授 (00269325)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 / control / 応答 / 交渉 / 看護 |
研究実績の概要 |
筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)の人々にとってLoss of controlの経験は生命危機以上の脅かしとなっている。我が国の看護職者による、ALSの人々の揺れ動くありように応答する価値を本人とその周囲に発信する「応答する看護」の構造化が必要である。 【研究の目的】本研究の目的は、ALSの人々に応答する看護の構造を明らかにすることである。本年度は、ALSの人々におけるcontrolの概念を再定義することを目的とする。 【研究の方法】ALSの人々の療養に関する国内外の学位論文をメタ統合する。William Powers(1973)のPerceptual Control Theoryの枠組みに基づいて、①ALSの人々のOutputはどの環境変数を何に基づいて評価した際にどのように生じていたか、②ALSの人々の療養に関する研究手法にはどのような偏りがあるのか、③ALSの人々の療養に関する研究の理論的パラダイムにはどのような偏りがあるのか、について分析し、ALSの人々のcontrolの概念の再定義にあたって先行知見を明確にする。以上の内容を研究組織および専門家会議で検討する。 【研究の成果】①の分析の結果、ALSの人々は、周囲の人々や自分自身との交渉において説得や共同決定や編みなおしといったOutputを行い、Inputされる周囲の反応や自分の思考に秩序が維持されれないと認識したときに、周囲との交渉からの撤退や社会的なアイデンティティの新たな意味づけ(生かされた存在として脅かしとともに生きる存在)を試みていた。②の分析の結果、上記の結果は人的・物的資源にアクセスしやすく交渉による実利を得やすい対象の特性であることが分析された。③の分析の結果、身体機能が縮小するALSの人々の交渉プロセスを、応答する他者の意図的なはたらきかけによる相互作用の産物としてとらえる視座に乏しいことが分析された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の重要概念の一つである「control」について、Skinner.E.A.(1996)の報告にあるようにcontrolの下位概念には理論的基盤の違いがあるにもかかわらず重複する用語が多種多様に定義されていた。ALSの人々の療養について再定義することは困難に思われたが、研究会議での検討の結果、システム理論の観点から整理する視座が得られ、研究を推進することにつながった。生物工学と心理学に端を発したPerceptual Control Theoryは学際的アプローチを可能にする理論的基盤を有しており、既に神経科学や教育学、社会学、文化人類学、発達心理学などの分野で応用されている。看護学において、ALSの人々や看護職者の行動モデルの基盤となることが期待でき、本年度のメタ統合におけるモデルの説明にも大きく寄与した。 controlの再定義に向け、今後はさらに、ALSの人々に応答する看護職者の意図的なはたらきかけをPerceptual Control Theoryの枠組みにおいて明らかにし、ALSの人々のcontrolの概念を看護職者との相互作用の産物として説明する看護モデルの仮構築を進める必要がある。 新型コロナウイルス感染症の影響によって、公式の研究会議の開催は1回に留まったが、成果発表の機会を通じて研究組織内や外部の専門家との検討を続けた。今後も成果発表の機会をメルクマークとしたスケジューリングによって計画的な検討機会を設ける必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
看護職者の意図的なはたらきかけについてPerceptual Control Theoryの枠組みにおいて説明し、「応答する看護」モデルを仮構築する。モデルの構築には専門家会議の開催が必要であるが、本年度の研究活動の実績をふまえつつ実効性の高い方略によって研究計画を遂行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症に伴う措置により、参加予定であった学術集会がWeb開催となったことや、研究会議が開催できなかったことにより、学術集会参加費や旅費・交通費の支出が減額となった。次年度も同様の状況が続くことが見込まれるため使途の調整を行う。本研究課題における検討の結果、システム理論を理論的基盤として構築する有用性が確認されたため、関連する書籍の購入や専門家からの助言を得るための研究会の参加費や会議費等に充当する。
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