研究課題/領域番号 |
20K11134
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
渡邉 賢治 自治医科大学, 看護学部, 助教 (50733622)
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研究分担者 |
春山 早苗 自治医科大学, 看護学部, 教授 (00269325)
鹿野 浩子 自治医科大学, 看護学部, 講師 (50806271)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 / control / 応答 / 交渉 / 看護 |
研究実績の概要 |
筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)患者にとってLoss of controlの経験は生命危機以上の脅かしとなっている。次第に活動が困難になるALS患者の内的・外的交渉を支え、コントロール感覚の維持を支援する看護実践モデルの開発が必要である。 【研究の目的】本年度は、ALS患者の知見をメタ統合した昨年度の結果に基づき「ALS患者のコントロールシステムに応答する看護実践モデル」を仮構築することを目的とする。 【研究の方法】ALS患者への看護実践経験に関して2016年3月から2016年8月までに収集された熟練の訪問看護師の語りをデータとし、昨年度構造化したALS患者のコントロールシステムの枠組みを用いて分析した。分析の視点は、①看護師がどのような視点でALS患者を捉えたか、②ALS患者のOutputに対してどのように実践(受け取る)したか、③どんな環境(患者の身体、床上環境、ベッド周囲の環境、家族や他職種 等含む)にはたらきかけたか、そして④ALS患者がInputできるようどのように実践(届ける)したか、の4つとした。 【研究の成果】研究協力者は全員が女性であり、平均24.2年の看護師経験年数を有し、平均15.8年のALS患者への実践経験を有していた。分析の結果、看護師は、①他者(家族や看護師)に対する患者の言い回しやためらいから患者なりの折り合いのつけ方を捉え、②患者の些細な動き一つひとつに対して言葉を選びながら受け取り、③呼吸機能を改善する体位変換を介助したり、家族や他職種や行政機関に患者の意向を伝えたりして、④実践した介助や伝達を「患者の代わりに動いた」ことが伝わるよう言葉を選んでフィードバックしていた。上記の結果は、「ALS患者のコントロールシステムに応答する看護実践モデル」の構築に必要なALS患者の捉え方の基礎資料の一つとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、訪問看護師の語りに基づいて「ALS患者のコントロールシステムに応答する看護実践モデル」を仮構築し、さらに学術集会での発表・討論、学会誌投稿への推敲過程において精錬した。これらの取り組みの結果、本看護実践モデルが基盤とするPerceptual Control TheoryやNegotiationの概念において「内的交渉」「外的交渉」に着目したALS患者のコントロールシステムに注目する意義と方略が明確化された。全身の筋の脱力に伴い「外的交渉」が難しくなるALS患者において、日常生活動作中の他者の様々なケアが脅かしになり「内的交渉」に偏らざるを得ないことについて、学術集会の複数の参加者より共感を得ることができた。なお、本研究の成果の一部は、日本看護科学学会において口頭発表し「若手優秀演題口頭発表賞」を受賞した。 今回の成果の要因の一つとして、メタ統合法の活用が挙げられた。この分析手法には時間を要し、また、研究者間でコンセンサスを得る難しさが伴うが、ALS患者への看護実践経験を有さない実践家・研究者にも共感しやすい知見を得られたと考えられた。 今後は、本看護実践モデルの有用性・実用性の検討を進める必要がある。新型コロナウイルス感染症対策に伴う移動制限・行動制限を見越した研究会議の実施、研究対象者の選定、および、そのサンプリング方略に伴う研究上の影響を踏まえた研究計画を立案・遂行することで進捗状況の遅れを改善する。
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今後の研究の推進方策 |
学術集会での検討をへて精錬された「ALS患者のコントロールシステムに応答する看護実践モデル」について、本看護実践モデルを活用する看護実践者の観察研究を行い、本看護実践モデルの有用性と実用性を検討する。観察研究の研究対象者となる病院や訪問看護事業所の看護師は、新型コロナウイルス感染症に伴う移動制限・行動制限などを踏まえ、地理的にも実現性の高いサンプリング方略となるよう、研究計画を立案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症に伴う措置により、参加予定であった学術集会がWeb開催となったことや、研究に関する会議が開催できなかったことにより、学術集会参加費や旅費・交通費の支出が減額となった。本年度の研究活動の結果、「ALS患者のコントロールシステムに応答する看護実践モデル」を試用する看護実践者に対する十分な説明機会を確保する必要性が明確化された。研究対象者のサンプリング方略を工夫しつつ、説明資料の印刷費や旅費・交通費などに充当する。
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