高齢化社会の癌治療の解決すべき問題の一つに栄養障害からくるフレイルが挙げられる.口腔での咀嚼は食物の消化・吸収の第一段階であるため,口腔・嚥下機能低下は栄養障害の一因となり,誤嚥性肺炎などフレイル特有の疾病につながる可能性がある.上部消化管手術は胃切除を伴い,本来の胃の機能である蠕動運動や器械的咀嚼が障害を受け,このことが残胃の運動および食物の消化・吸収に悪影響を及ぼしていると考えられる.特に口腔での咀嚼力が低下している患者では,さらに栄養障害のリスクを上昇させていると予想される.本研究では上部消化管周術期の咀嚼機能に着目し,咀嚼と残胃の運動生理および咀嚼機能と周術期の栄養状態との関連を検討する.口腔嚥下機能と食道癌周術期の合併症および術後の栄養状態との関係を検証した. ① 咀嚼と胃の運動生理の関係を検討する.1:上部消化管手術の術前・術後に咀嚼力と胃排出能を測定し,関連性を調査する2:Wister系ラットを用いて抜歯を行なった咀嚼機能低下モデルを作成し,健常ラットとの胃・腸管運動機能の比較評価を行う.またラットの胃切除モデルも作成して,同様の実験を行い,術後の体重の変化を測定,及び胃内容排出率を計測する ② 口腔嚥下機能と食道癌手術後の栄養状態の関係を明らかにする.食道切除術を受ける患者の術前後の口腔・嚥下機能と術後合併症や栄養状態をとの関連を調査した.口腔嚥下機能の低下は周術期の反回神経麻痺・呼吸器合併症と密接に関連することが確認された.また口腔・嚥下機能の低下が術後の低栄養と密接に関連することが確認された.具体的には術後2週目の嚥下機能低下は術後1年までの低体重の原因となる.このため術後嚥下機能低下患者に対しては適切な嚥下リハビリの継続が必要であることが確認された.
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