研究課題/領域番号 |
20K11189
|
研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
津森 登志子 県立広島大学, 保健福祉学部(三原キャンパス), 教授 (30217377)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 腹圧性尿失禁 / 肥満モデルラット / 骨盤底筋 / 腸骨尾骨筋 / 恥骨尾骨筋 / 蛍光免疫染色 |
研究実績の概要 |
骨盤底筋には、骨盤臓器支持の主体となる肛門挙筋群や、尿道閉鎖に能動的に寄与する外尿道括約筋などが含まれ、体肢の筋と同様に骨格筋組織である。しかし、随意筋でありながらその存在を生体で認識することが困難なことに起因し、しばしば「骨盤底筋」と一括りにされて認識される傾向にある。骨盤底筋を構成する筋群の解剖学的位置やその組織特性を明確に区別し理解することが、本筋の機能不全への対処には必要不可欠と考えられる。本課題では、尿道閉鎖と骨盤臓器支持に重要な役割を果たす骨盤底筋について、筋細胞内脂質沈着による器質的変化を肥満モデルラットを用いた実験形態学的手法により詳細に解析する。本研究の遂行により、肥満による骨盤底筋機能不全がもたらす腹圧性尿失禁や骨盤臓器脱の病態に新しい形態学的知見を与え、予防や運動療法開発に貢献する有効な基礎的データを提供することができると考える。 これまでの研究(科研費基盤研究(C)17K01523)により、ラットの骨盤底筋のうち、外尿道括約筋の組織特性はすでに明らかにしてきた。よって初年度では、肛門挙筋の主体を占める腸骨尾骨筋・恥骨尾骨筋の組織特性を明らかにすることから開始した。雌雄Wistarラットの両筋を摘出して凍結切片を作製し、筋線維タイプ同定のために三重免疫蛍光染色を行った。筋線維タイプ同定には、myosin heavy chain のうちType 1・2A・2B をマーカーとして用いた。その結果、外尿道括約筋とは異なり、筋線維タイプによる部位局在性は認められず、異なる筋線維タイプが筋層全体にモザイク状に混在する特徴を示すこと、速筋(type2Aと2B)が大部分を占めたが、 明らかにこの三種のマーカーで染色されない別のタイプの線維も存在すること、性差による大きな特徴がないこと、などが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当該年度中には、新型コロナ感染症蔓延防止策の一環として大学の活動基準が制限された時期があった。大学内への立ち入り制限、テレワーク推進などにより、研究代表者はもちろん、雇用していたリサーチアシスタントの大学構内への立ち入りも抑制されたため、実験室や動物舎内での実働が制限され、研究時間の確保が困難であった。 雌雄Wistarラットの腸骨尾骨筋・恥骨尾骨筋の筋線維タイプ同定は実施できたが、肥満モデルラットについてはオスの12, 16, 20週齢のみ2頭ずつ試料採取は行ったものの、凍結試料として保存しているに留まっている。
|
今後の研究の推進方策 |
当該年度中に肥満モデルラット(雄)の12, 16, 20週齢の試料採取は終了し、尿道周囲組織・腸骨尾骨筋・恥骨尾骨筋の凍結組織は保存している。よって、まずは計画通り、8, 24週齢の肥満モデルラットの試料採取も追加した上で、腸骨尾骨筋・恥骨尾骨筋について多重蛍光免疫染色を実施し、筋線維タイプを同定してWistarラットと比較を行う。特に、myosin heavy chain のType 1・2A・2B以外の筋線維タイプの存在の可能性については、検出可能なマーカーを追加して四重蛍光免疫染色にトライする。次に、採取試料の脂肪染色を行って筋組織における脂肪の分布密度について解析し、週齢による相違を把握する。最も脂肪沈着の強い週齢については、電子顕微鏡観察用の試料採取を改めて実施し、筋線維の超微形態を電顕下で観察することにより、脂質沈着が細胞内小器官にどのような影響を与えているかを検討する。 今年度、再び大学の活動基準が制限された場合には、保存凍結試料の切片化・染色・観察を最優先に行い、あらたな試料採取や電顕レベルの解析は、次のステップとして実施する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
感染症蔓延防止のための大学活動基準に則り、構内での研究実働時間を縮小せざるを得ない時期があった。よって、初年度に実施する予定であった肥満モデルラットの購入と材料取りが計画通りに実施できなかった。また。凍結試料作成・染色などの実験補助をするリサーチアシスタントの雇用も十分できなかったため、謝金の発生も計画より少額となった。次年度には、計画していた各週齢のモデルラットを購入し、標本作成のためのリサーチアシスタントの雇用を計画通りに実施する予定である。
|