研究実績の概要 |
肥満モデル動物による骨盤底筋群の解析は, 肥満による骨盤底筋機能不全がもたらす腹圧性尿失禁や骨盤臓器脱の病態に新しい形態学的知見を与え, 予防や運動療法開発に貢献する基礎的データを提供することができる。腹圧性尿失禁の発症機序解明にはしばしば多様な動物モデルが使用される。我々も経膣分娩をシミュレート(膣拡張処理)した動物モデルを使用して尿禁制に重要な役割を果たす外尿道括約筋の筋線維構成に与える影響を解析し, 選択的にtype2B線維への不可逆的な損傷があることを報告した(Tsumori and Tsumiyama, 2018)。 本研究では, 肥満による腹圧性尿失禁モデル動物としてZucker Fatty(ZF)ラットを用い, 骨盤底筋群の主要な構成要素である肛門挙筋について, 筋線維タイプ構成および筋線維タイプ別の細胞内脂肪沈着様態について蛍光免疫組織化学的に解析した。20週齢のZFラットおよび同週齢のWistarラットにおいて, 肛門挙筋の主体を占める腸骨尾骨筋と恥骨尾骨筋を対象に4種類のmyosin heavy chainを用いてType 1・2A・2B・2X各筋線維タイプ構成を解析し, 脂肪膜タンパクのマーカーであるAdipophilinを用いて筋細胞内脂肪を検出した。 その結果, 肛門挙筋は速筋主体で特にtype2Xと2B線維が大部分を占めることが明らかになった。ZFラットにはType2A/2Xハイブリッド線維が含まれていたが, Wistarラットでは認められなかった。筋線維タイプ別の脂肪沈着に関して, Wistar ラットでは主としてtype1線維に弱く認められた一方、ZFラットではtype1のみならずtype 2A線維にも強い沈着が認められた。さらにZF ラットではType2X線維の一部にも弱い肪沈沈着は認められたが, type2B線維には認められなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
必要な週齢の肥満モデル(ZF)ラットの入手可能時期と研究時間を確保できる時期が合致せず, 計画していた通りに試料採取とそれに続く標本作成の実行ができなかった。今年度の試料採取は主として20週齢の動物を用いて蛍光免疫染色用に行ったが, 同週齢ラットの電子顕微鏡観察用の試料採取をほとんど行うことができなかった。さらにZFラットにおいて, 20週齢との比較対照として12週齢の動物の試料採取も予定していたが, 必要匹数を確保することができなかった。これらのことから当初の計画より研究遂行が遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で明らかになった肛門挙筋における筋線維タイプ構成および筋線維タイプ別の脂肪沈着の強弱について, BZ-Xの形態解析アプリを使用して数値データを取得し, 統計解析を行う。そのために必要な動物試料数の確保を行う。さらに, 肥満モデルラットに顕著に存在することが明らかになったType2A/2Xハイブリッド線維について, 脂肪沈着様態を蛍光免疫多重染色を用いて解析し, 筋線維内脂肪沈着と線維タイプ移行との関連があるかどうか検討する。次に, 電子顕微鏡を用いて筋線維内における脂肪の局在とそれによって生じる微細構造上の変化, 特にミトコンドリアへの影響について所見を得る。
|