研究実績の概要 |
肥満モデル動物による骨盤底筋群の解析は, 肥満による骨盤底筋機能不全がもたらす腹圧性尿失禁や骨盤臓器脱の病態に新しい形態学的知見を与え, 予防や運動 療法開発に貢献する基礎的データを提供することができる。腹圧性尿失禁の発症機序解明にはしばしば多様な動物モデルが使用される。我々も経膣分娩をシミュ レート(膣拡張処理)した動物モデルを使用して尿禁制に重要な役割を果たす外尿道括約筋の筋線維構成に与える影響を解析し, 選択的にtype2B線維への不可逆的な損傷があることを報告した(Tsumori and Tsumiyama, 2023)。 本研究では, 肥満による腹圧性尿失禁モデル動物としてZucker Fatty(ZF)ラットを用い, 骨盤底筋群の主要な構成要素である肛門挙筋について, 筋線維タイプ構成および筋線維タイプ別の細胞内脂肪沈着様態を多重蛍光免疫組織化学的手法を用いて解析した。20週齢のZFラットおよび同週齢のWistarラットにおいて, 肛門挙筋 の主体を占める腸骨尾骨筋と恥骨尾骨筋を対象に4種類のmyosin heavy chainを用いてType 1・2A・2B・2X各筋線維タイプ構成を解析し, 脂肪膜タンパクのマー カーであるAdipophilinを用いて筋細胞内脂肪を検出した。 その結果, 肛門挙筋は速筋主体の構成で, 特にtype2Xと2B線維が多くを占めることが明らかになった。筋線維タイプ別の脂肪沈着については, Wistarラットではtype1線維に限局したが, 肥満モデルラットではtype1のみならずtype 2A線維にも強い脂肪沈着が認められた。さらに, Type2X線維の一部にも弱く認められるなど脂肪沈着が遅筋のみならず速筋にも拡大していた。これらの結果より, 肥満モデルラットの肛門挙筋では脂肪沈着による筋収縮機能不全への影響が示唆された。
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