研究実績の概要 |
特定の知覚刺激を使った課題を繰り返し行うことでその課題成績を向上させることができる.このプロセスは知覚学習と呼ばれ,知覚学習理論に基づいたリハビリテーション戦略は触覚機能障がいを回復へと導く可能性があると考えられている.しかし,知覚学習効果には大きなばらつきがあり,課題を繰り返し行っても期待した効果が得られないことも多い.そこで,本年度は触覚方位弁別課題を繰り返し行うことで,課題成績にどのような変化が生じ,知覚学習効果にどの程度のばらつきがあるのかを検証した.触覚方位弁別課題とは幅の異なる縞(0.35, 0.5, 0.75, 1.0, 1.2, 1.5, 2.0, 3.0 mm)が刻み込まれたドーム状の機器を対象者の示指に押し当て,その縞の方位(縦or横)を回答する課題である.結果として,2人に1人の対象者では触覚方位弁別課題を繰り返し実施した後に弁別能力の向上を認めたが,残りの対象者では課題を繰り返し実施した後に弁別能力が低下した.さらに,課題遂行前の弁別能力と課題遂行によって生じる弁別能力の変化の間には相関関係が認められた.つまり,課題遂行前の弁別能力が低い対象者では課題を繰り返し行うことで弁別能力が向上するが,弁別能力が高い対象者では課題遂行によって弁別能力が低下することが明らかになった.これらの結果から,課題遂行前に対象者が有する弁別能力によって,知覚学習効果が変動する可能性が示唆された.
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