研究実績の概要 |
特定の知覚刺激を使った課題を繰り返し行うことでその課題成績を向上させることができる.このプロセスは知覚学習と呼ばれ,知覚学習理論に基づいたリハビリテーション戦略は触覚機能障がいを回復へと導く可能性があると考えられている.昨年度は,知覚学習効果には大きなばらつきがあり,期待した効果が得られない対象者が多数存在することを確認した.そこで,本年度は触覚方位弁別課題を繰り返し行うことで,安静時脳活動にどのような変化が生じるのかを検証し,知覚学習効果が得られる対象者と期待した効果が得られない対象者とで安静時脳活動に違いが見られるのかを検討した.触覚方位弁別課題とは幅の異なる縞(0.35, 0.5, 0.75, 1.0, 1.2, 1.5, 2.0, 3.0 mm)が刻み込まれたドーム状の機器を対象者の右示指に押し当て,その縞の方位(縦or横)を回答する課題である.安静時脳活動では64chの全頭型脳波計を用いて,8-12Hzの周波数帯域の脳律動パワー(αパワー)を解析した.結果として,知覚学習が得られた対象者では触覚方位弁別課題を繰り返し実施した後に左大脳半球の頭頂葉領域を中心にαパワーが増大していたのに対して,学習効果が得られなかった対象者では左大脳半球の前頭葉から頭頂葉にかけての広範な領域でαパワーが増大していた.これらの結果から,知覚学習が得られる対象者と期待した効果が得られない対象者では課題を実施した後に生じる脳活動が異なる可能性が示唆された.
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