研究実績の概要 |
脳梗塞後の麻痺や障害に対して、脳の可塑性変化に基づいた新たなリハビリテーションという概念が浸透し始め、積極的に麻痺回復を行う治療戦略に関心が高まりつつある。本研究は、脳卒中リハビリテーションの麻痺回復に関連した脳内分子機構の解明を目指すものである。photothrombosis による脳梗塞モデルを用いて大脳皮質限局性に脳梗塞を作製し、脳梗塞2日後から回転ケージによる歩行訓練を行った群をEX群、訓練を行わなかった群をCNT群とし、麻痺および機能回復の程度と脳内のO-GlucNAc修飾、リン酸化修飾の動態について解析を行った。運動機能解析はrotarod test を用い、回転棒上での歩行持続時間を脳梗塞前、梗塞後2,4,6日目に計測した。その結果、CNT群と比較してEX群において6日目に有意な歩行持続時間の増加が確認された。GlcNAcの結合はリン酸化修飾の部位と類似していることから、種々のシグナル制御を行っていることが示唆されている。そこで、脳梗塞後6日目の脳梗塞巣辺縁大脳皮質におけるレクチン親和性ゲル電気泳動を用いて、O-GlucNAc修飾の検出を行った。EX群・CNT群との比較において、PKAおよびMAPKで高分子量側にシフトしたシグナルの変化が確認された。さらにリン酸化プロテオーム解析ではEX群においてMAPK8、MAPK10の活性化サイトへのリン酸化修飾が確認された。これらの結果を受け、cAMP signaling pathway やMAPK signaling pathwayに関連した受容体作動薬の投与と運動訓練を併用することにより、rotarod testにおいて投与量依存性に運動機能回復が認められた。これらのpathwayに関連した脳内リン酸化タンパクの変化が脳梗塞後の機能回復に関連した分子基盤の一つである可能性が示唆された。
|