本研究では、サルコペニアの横隔膜機能を超音波で評価する方法を開発し、その技術を用いて、サルコペニアと運動ニューロン疾患における横隔膜機能を比較することを目的とした。スペックルの追尾は速い動きの場合困難となるが、高フレームレート、低ゲイン、スムージングなしなど、トラッキングに最適化した方法で記録した動画を、データ量を削減せず取り出すことで精細な追尾解析が可能となった。前年度までに行った健常者、ALS患者における検討に引き続いて、一次性サルコペニアが疑われる健常高齢ボランティア(他疾患のない被検者)を動員して、サルコペニア指標、呼吸機能検査、横隔膜超音波検査、横隔神経伝導検査などを実施した。側腹部から記録した超音波画像における、頭尾方向への横隔膜の移動を、後方視的に本研究で開発した横隔膜スペックルトラッキングアプリケーションを用いて解析した。健常者21名、サルコペニア疑い21名、ALS患者19名を検査したが、AWGSの基準に該当したサルコペニア高齢者は9名であった。安静時呼吸における横隔膜水平移動量は健常者では2.2±2.2 mm、サルコペニア高齢者は1.4±0.9 mm、ALSでは0.6±1.4 mmで、ALSが健常者に比して有意に低く(p< 0.01)、サルコペニア高齢者はその中間であった。サルコペニアの病態には筋代謝異常だけでなく、ALSに類似した機能的脱神経が関与している可能性もあると考えられた。
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