本研究課題は,脳卒中の上肢機能に対する介入方法の一つであるミラーセラピーを参考に,没入型のVirtual Reality(VR)を応用することで新しい上肢機能訓練システム(HTS-VR)を開発し,その有効性について検討することを目的としている. 今年度は,従来型の鏡を用いたミラーセラピーでは実現できなかった一側手(麻痺側)の動作を予め記録し,VR上で対側手の動作と同時再生することで,対側手と非対称的な動作課題を可能とするプログラムの効果について,健常者を対象に,皮質脊髄路興奮性の観点から経頭蓋磁気刺激(TMS)による運動誘発電位(MEP)を指標として検討を行った.今回作成したプログラムは,麻痺側を想定した不動手側の動きの記録・再生が簡単に可能であったが,再現できる動作に制限があり,今回の検討では,手関節の掌背屈反復運動での検討を行った.その結果,MEPの観点からは,一貫した実験結果は得られず,今後プログラムの修正と実験条件の統制をした上での再検討が必要と考えられた. 一方,本課題中全般において新型コロナウイルスの影響で,研究計画通りの進捗ができず脳卒中患者を対象とした臨床研究まで到達できなかったため,現時点でのVRによるミラーセラピーの脳卒中上肢機能への効果についてシステマティックレビユーとメタアナリシスを上記と並行して実施し,論文投稿を行った.本メタアナリシスの結果,VRによるミラーセラピー群は対照群と比較して上肢において有意な改善を示していた.しかしながら,5件の研究では,VRプログラムの内容,脳卒中発症からの期間,上肢機能の重症度が異なるため,今後さらなる検討が必要と考えられた.本メタアナリシスの結果も参考にして,研究期間終了後も,本研究課題におけるHTS-VRのプログラムの修正を進め,脳卒中患者を対象とした臨床研究を行っていく予定である.
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