研究課題
本研究の目的は,脊髄損傷者において,歩行支援ロボットWPAL (Werable Power-Assist Locomotor)を用いた歩行練習を行い,運動学習の課程を歩行分析によって評価することである.歩行分析の手法として,第7頚椎,第 5腰椎,両側肩峰,両側腸骨稜頂点にカラーマーカを貼付し,矢状面および前額面を連続8歩以上撮影し,ダートフィッシュ(R)を用いて連続6歩を解析することとした.体幹の角度を表す指標として,体幹側傾角(第7頚椎と第 5腰椎を結ぶ線が鉛直に対して成す角度の葉に),体幹前後傾角(肩峰と腸骨稜を結ぶ線が鉛直に対して成す角度の範囲),体幹前後姿勢角(肩峰と腸骨稜を結ぶ線が鉛直に対して成す角度の平均値.前傾の時に正と定義)を算出した.脊髄損傷者9名(頚髄損傷4名,胸髄損傷5名)に対して計測を行った.体幹側傾角,体幹前後傾角,体幹前後姿勢角の中央値(最小値,最大値)はそれぞれ,14.1°(6.0°,23.5°),20.8°(10.1°,39.8°),0.0°(-13.5°,14.4°)であった.神経学的レベルを尾側になると1増える値として定義し,これらの角度との関係を調べたところ,体幹側傾角と-0.81,体幹前後傾角と-0.56,体幹前後姿勢角と-0.35の相関係数が得られた.つまり,神経学的レベルが高位であるほど,歩行中の前後,左右への体幹角度の変化が大きいことが示された.また,それぞれの角度と連続歩行距離.Functional Ambulation Category(FAC)との相関係数を求めたところ,体幹側傾角と連続歩行距離,FACの相関係数はそれぞれ-0.50,-0.62であり,中等度の相関を認めた.今回,複数回の計測を行った2名においては,上達につれて体幹側傾角の減少を認めたことから,体幹側傾角の減少が運動学習の進捗を表す可能性が示唆された.