研究課題/領域番号 |
20K11226
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研究機関 | 第一工業大学 |
研究代表者 |
大惠 克俊 第一工業大学, 工学部, 教授 (80388123)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 発声障害 / 機能代行 / 人工喉頭 / 筋電位信号 / 補助・支援デバイス / スピーキングバルブ / 食道発声法 |
研究実績の概要 |
令和2年度においては主として発声補助用小型ポンプとスピーキングバルブの形状改良,食道発声法訓練支援デバイスにおける健常者と障害者の発声時の使用筋の違い,および人工喉頭システムの制御システムに使用するベースシステム変更に関する研究を実施した. 小型ポンプに関しては,マイクロブロアの使用数を従来の10個から14個に増加させ,さらに流路形状の改良を行った.流路形状はこれまでのブロアごとの流路を持つチャンネル型から,全ブロアからの気流を一つの空間に噴出させてから外部へ導くチャンバ型へと変更した.有限要素シミュレーションによる性能評価から,流量,圧力共に目標値よりも高い値が得られた. スピーキングバルブに関しては,これまで用いてきたスライド式を改め,機構を小型化可能なバタフライ式の形状を採用し,その設計及び流路抵抗に関する有限要素シミュレーションを行った.結果として気流抵抗は増加したが,スライド型よりも小型で合理的な形状を見出すことができた. 食道発声法訓練支援デバイスに関しては,新型コロナ感染症の影響のため現地調査を実施することができず,これまで得られたアンケートおよび追加実施したアンケートを含めた結果の見直しをするにとどまった.またこれまでに得られた喉頭適出者が食道発声法使用時に活動するとみられる筋肉が,健常人の発声時にどのような活動をするかについての比較実験を行った.その結果から,健常者と喉頭適出者では舌を動かす筋肉(顎舌骨筋)の動きに差異が見られることが明らかとなった. 人工喉頭制御システムに関しては,従来のLabVIEWを用いたPCベースのシステムからMyowareとArduinoを用いたマイコンベースの簡便で安価なシステムへの変更について検討および試作を行った.結果としてMyowareを用いて頚部筋電位信号を検出することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発声補助用小型ポンプおよびスピーキングバルブの形状に関しては,チャンバ型やバタフライ式のこれまでに着目してこなかった新しい形状を新規に考案し,有限要素シミュレーションによりその有効性が確認された.これらは今後の形状最適化の中心的な設計指針とする予定である. 食道発声法訓練デバイスに関しては,本年度ではアンケート結果に基づき,食道発声法使用者の発声時の使用筋を直接測定する予定であったが,新型コロナ感染症を被験者に広げる危険性を鑑み,測定に関しては保留とした.この点に関しては研究が滞ってしまったが,アンケート数は予定通り増え,また顎舌骨筋の使用に関して食道発声法使用者と健常者との間で明らかな差異が発見され,訓練時の指標にできる可能性が確認された点では予定以上の進捗が得られた.. 人工喉頭制御システムに関しては,初めて使用するMyowareおよびArduinoの使用方法に関して当初研究の停滞が見られたが,最終的に筋電位測定電極を貼付した箇所の筋電位信号の検出が可能となり,検出波形にフィルタをかけることで制御に用いるのに適したデータに変換するところまでが実施された.今後はこのシステムをベースに制御プログラムを作成する. 人工喉頭音源の低周波数化およびウェアラブル化に関しては,研究参加人数が削減されたこともあり,今年度は保留とした.上述のように積極的な研究を行わなかったテーマがあるが,予定通り実施できた内容に関してはほぼ計画通り研究の進捗が見られたと考えられる.したがって,全体としておおむね順調に推移していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度に関しても研究体制は当初の計画よりも少人数であるため,人工喉頭音源およびスピーキングバルブに関するテーマに関してはやや縮小して実施する.その他の項目についての推進方策を以下に項目毎に整理する. 人工喉頭制御システム:本年度作製したMyowareとArduinoを用いた制御システムの改良を進める.検出した筋電位信号へ適用するフィルタや信号処理方法の改良により,人工喉頭の制御に適した信号への変換を行う.同時に人工喉頭を制御するためのプログラム作成を行い,制御実験までを実施する予定である.また筋電位測定電極を頚部に固定するための保持具などの作製も行う予定である. 発声補助用小型ポンプ:本年度提案したチャンバ型の改良を進めつつ,流量を増大させるための手法として空気の粘性を利用して周囲の空気を取り入れる形状について検討を行う.これまで通り,有限要素シミュレーションにより形状の適性を確認しつつ,3次元プリンタを利用した試作および性能評価を行う予定である. 食道発声法訓練支援デバイス:これまでに得られたアンケート結果および筋電位信号測定結果を見直し,追加アンケートおよび訓練支援デバイスの提案および試作を行う.新型コロナ感染症の状況によっては,食道発声法患者の筋電位信号測定を再開し,そこからこれまでに同定した支援デバイスに用いる筋肉の有効性および模範データの抽出を進める. 縮小して実施する人工喉頭音源に関しては,周波数の異なる複数の振動子を用いた音源や,従来の縦振動ではなく横方向の振動を用いた手法などに関する提案および予備実験を行う.スピーキングバルブに関しては,プロトタイプの作製を行いたいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)令和2年度においては,食道発声法使用者へのアンケート依頼および筋電位信号の実測や研究打合せのための複数回の出張を計画していたが,新型コロナ感染症のため,県をまたぐ出張を全て取りやめた結果,旅費が大幅に残った.それに伴い,被験者への謝金も支出することがなかった.また,ソフトウェアライセンスが更新無しで使用可能であったため,この点からも支出が減った.試作に関しては3次元プリンタ用の材料が既存であったため,新規に購入した材料が少なくて済んだ.また,設計変更およびシミュレーションに時間がかかったため,スピーキングバルブが試作まで進めなかった点も支出減の一因である. (使用計画)令和3年度においては前年度までの経過を踏まえ,計画している発声補助用小型ポンプおよびスピーキングバルブや,新規に提案した筋電位測定用電極を頚部に固定するための保持具などを作製する予定である.人工喉頭音源の制御を行うためにソフトウェアの更新が必要となるため,この更新費用としても使用する.また新型コロナ感染症の状況次第ではあるが,研究打合せや食道発声法使用者の筋電位測定,さらに成果発表などの機会があれば,旅費や被験者への謝金等が必要となると考えられる.次年度の助成金と併せて,これらの試作費,物品費,謝金,旅費などに使用する予定である.
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