研究課題/領域番号 |
20K11248
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研究機関 | 関西医療大学 |
研究代表者 |
鈴木 俊明 関西医療大学, 保健医療学部, 教授 (60206505)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 運動観察 / 視線 / 視覚的注意 / F波 / 視線追跡装置 / アイトラッキング / 誘発筋電図 |
研究実績の概要 |
本研究は健常成人31名を対象とした。誘発筋電計を用いて右尺骨神経刺激により右小指外転筋から安静時および観察時のF波を導出し、さらに視線追跡装置にて視線の動向を測定した。観察課題は母指以外の4指の屈曲運動(課題A)と小指の屈曲運動(課題B)とし、各課題にて自由観察条件と口頭指示を用いて小指へ視線を向けさせる注視条件を設定した。また、映像に対する視線の動向を評価するため、小指に対して興味領域を作成した。分析項目は安静時を1とした観察時の振幅F/M比、小指に対する視線の停留時間とした。 結果は、脊髄前角細胞の興奮性の指標である振幅F/M比と視線の停留時間は、課題Aの自由観察条件と比較し課題Aの注視条件、課題Bの両条件で有意に高値を示した。つまり、小指の屈曲運動に対して視線が向くことで、小指屈曲の作用のある小指外転筋に対応した脊髄前角細胞の興奮性が増大したことを示している。詳細に分析していくと、課題Aは4指の運動が同時に生じる映像であったことから、小指に対し視覚的注意が向きにくい特徴を有していたと推察する。そのため、注視条件と比較して自由観察条件では小指に視線が集まらなかったと考える。一方で、課題Bは小指単独の運動映像であり両条件とも小指に対する視線は集中し易い課題であったことから、両条件とも脊髄前角細胞の興奮性は高まったと考える。したがって、運動観察では運動部位に視線(視覚的注意)を向けることで、運動皮質の賦活にともなう上位中枢からの下行性の影響で脊髄前角細胞の興奮性は増大したことが示唆された。 本研究結果より、運動観察を理学療法へ応用する際には、機能改善を求める部位の運動へ患者の視線が向くように口頭指示の方法や提示する映像自体に工夫を加えることで、運動観察によって得られる治療効果はさらに高まる可能性が見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究成果の学会発表をおこない、論文1本を投稿して受理された。しかし、そのなかで明らかにすべき課題が生じてきた。これまでの研究では、実際に視線と視覚的注意を分けて評価することができていなかったため、運動観察に必要な要素が不明確であった。そこで、今後は視線と視覚的注意についてより詳細に検討し、運動観察において脊髄前角細胞の興奮性を高めるうえで必要となる条件を明らかにするため、研究を継続したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現時点までの研究では、実際に視線と視覚的注意を分けて評価することができていなかったため、運動観察に必要な要素が不明確であった。そこで、今後は視線と視覚的注意についてより詳細に検討し、運動観察において脊髄前角細胞の興奮性を高めるうえで必要となる条件を明らかにしていきたいと考える。そこで、具体的な研究の方法論については以下に記載する。 健常成人を対象とし、誘発筋電計を用いて右尺骨神経刺激により右小指外転筋から安静時および観察時のF波を導出し、さらにアイトラッキングにて視線の動向を測定する。提示する映像は、今回は視覚的情報量を最小限とするため他指の運動を除いた小指の屈曲運動とし、口頭にて意図的に小指へ視線を向けさせる小指注視条件(条件A)と母指に視線を向けさせる母指注視条件(条件B)を設定する。これにより、必然的に小指に視覚的注意が向く状況下で、小指に対する視線の有無による小指外転筋に対応した脊髄前角細胞の興奮性変化を評価できると考える。また、指定した部位に正しく視線が向けられているか評価するため、条件Aでは小指、条件Bでは母指に対して各々興味領域を作成する。分析項目は振幅F/M比と興味領域内に留まる視線の停留時間とする。 仮説としては、条件間で視線の停留時間に差異がなく、振幅F/M比が条件Bと比較して条件Aで増大すると考える。つまり、目的とする部位に対して、視覚的注意と視線を合わせることが脊髄前角細胞の興奮性を高めるためには必要になると予測する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍において、学会がオンライン等で開催されたため、旅費の支出はなかった。 2023年度には、運動観察時の視覚的注意を検討する際に画像を提示する媒体として、タブレット端末を購入し、使用したいと考えている。
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