本研究の目的は、低強度のダウンヒル歩行トレーニングの作用メカニズムと高齢者への効果を明らかにすることである。遠心性収縮運動は速筋線維の活動を動員しやすいことがわかっているが、低強度のダウンヒル歩行で速筋線維が動員されるかは明らかではない。2020年から2021年の本研究により、ゆるやかな下り勾配(-6%)と急な下り勾配(-12%)の歩行を比較し、筋活動から、ゆるやかな-6%勾配でも速筋線維の動員を促す可能性があることがわった。 そこで、2022年から、ゆるやかな-6%勾配を用いたダウンヒル歩行トレーニング実験を開始した。対象者は高齢者(60歳以上の80歳未満)で、男女24名をコントロール群(平坦)とダウンヒル群に分け、筋力と筋電図を測定してトレーニングの効果を検証した。トレーニングでは、トレッドミルを使用し、6週間(3回/週)の期間で歩行速度を3.0から4.0km/時に設定し、歩行時間を最大30分まで延長した。また、2023年には、さらに男女12名の高齢者を対象として追加のトレーニング実験を行った。 トレーニング時の平均血圧は、コントロール群とダウンヒル群間に有意な差は認められなかったが、心拍数はダウンヒル群が有意に低いことが示された。6週間のトレーニング後、膝伸展の最大筋力と外側広筋の筋活動(rmsEMG)は、ダウンヒル群のみ増大した。また、ダウンヒル群では、足関節底屈筋の力発揮率(RFD)が、0msecから50msec区間、および0msecからピークフォースまでの区間の両方で増加傾向を示したが、コントロール群では大きな変化は認められなかった。 本研究の結果から、ゆるやかなダウンヒル歩行は心肺機能への負荷が少なく、膝伸展筋と足関節底屈筋の筋力を増大することが明らかになった。これは、ゆるやかなダウンヒル歩行が、高齢者の神経筋トレーニングとして有効である可能性が示唆された。
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