研究課題/領域番号 |
20K11274
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研究機関 | 熊本保健科学大学 |
研究代表者 |
申 敏哲 熊本保健科学大学, 保健科学部, 教授 (70596452)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 舌刺激 / 脳血管性認知症 / ラット |
研究実績の概要 |
本研究ではWistar系ラット雄を用いてShamコントロール群(Con群)、脳血管性認知症群(P2VO群)、脳血管性認知症+触・圧覚刺激群(P2VO+TPS群)、脳血管性認知症+痛覚刺激群(P2VO+PS群)に分け、舌への触・圧覚、痛覚刺激が脳血管性認知症モデルラットの認知機能低下に及ぼす影響について検討した。その結果、長期記憶の評価では、P2VO群で Con群に対し、記憶力の低下が確認されたが、舌への触・圧覚、痛覚刺激群では記憶力低下の改善が認められた。短期記憶の評価でもP2VO群で逃避時間の有意な短縮が認められたが、両舌刺激群ではP2VO群に対し、逃避時間の延長がみられた。本研究の結果では、血管性認知機能低下は長期記憶より短期記憶で多くの影響がみられ、舌刺激の効果は僅かであるが触・圧覚が痛覚刺激より効果的で有った。脳組織標本を用いた記憶の中心部である海馬でのc-Fos・BrdU陽性細胞発現数検討では、P2VO群でc-Fos・BrdU陽性細胞数の低下がみられたが、舌刺激群では増加傾向又は有意な増加が見られた。また、細胞死のマーカーであるCaspase-3陽性細胞発現数の測定では、P2VO群でCon群に対し、Caspase-3陽性細胞発現数の有意な増加がみられたが、脳血管性認知症群に触・圧覚、痛覚激を行った舌刺激群ではCaspase-3 陽性細胞発現数の若干の変化は見られたが有意差は認められなかった。これらの結果から、舌への触・圧覚、痛覚刺激は、血管障害による脳内の血流低下で起こる海馬の活性低下を活性化させ、脳血管性認知症ラットにみられる記憶力の低下を改善させた可能性が示唆された。しかし、血管障害により発生する細胞死に関する舌刺激の細胞保護効果については認められなかった。今後ウェスタンブロット法で更なる検討が必要と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度では脳血管性認知症モデルラットを作成し、舌刺激がラットの認知能力の低下に及ぼす影響について行動学的手法、免疫学的手法、生化学手法により、その効果を検討する予定であった。特に免疫学的手法と生化学手法を用いて行動実験で得られた結果に対するそのメカニズムを検討する予定であったが、新型コロナウィルスの影響で2-3名で行っていた動物実験での研究員や学生からのサポートを得ることができない状況が長かったため、実験を予定通りに進めることができなかった。現在、遅れてはいるものの研究を進めており、2ヶ月間の加入実験を終え、タンパク質の分析に入る予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在、遅れているが研究を進めており、モデルラットでの2ヶ月間の舌刺激実験を終え、タンパク質分析用脳組織の準備を終えている。2022年度では、2021年度で計画した生化学手法を用いたPKC、MAPK、PI3K、CREBタンパク質等の神経可塑性に関係する因子に関する分析をWestern blot法により行うことで脳血管性認知症モデルラットに対する舌刺激の効果のメカニズムを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度でも新型コロナウィルスの影響で動物実験を行う際に研究補助員や学生からのサポートが必要であるがサポートを貰えない状況が長かったため、実験を予定通りに進行させることができなかったので次年度使用額が生じた。特に、新型コロナウィルスの事態による学会のキャンセルまたはオンラインへの切り替えなどで旅費の未使用、研究補助員の実験室出入り制限などによる人件費の未使用、動物実験の遅れによる試薬等の消耗品購入の延期により次年度使用額が生じた。現在、遅れてはいるものの実験を進めており、残りの予算は今年度の試薬等の消耗品購入に使用する予定である。
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