頭頸部の慢性疼痛の誘発因子として、頸部痛を誘発する「頸椎の病態運動(過剰な分節運動)」と「後頸部筋の持続収縮」に着目して、研究1~3を実施した。研究1では「頸椎の運動と隣接部位との関係」について検証し、頸椎の運動では胸椎の可動域が変化して腰椎・仙骨までは変化しない結果となった。このことから頸椎の正常な運動を維持するためには、胸椎の可動域が重要であり、特に頸椎と上位胸椎の協調運動が重要であることが示唆された。逆に上位胸椎の可動域が制限された状態では、「頸椎の病態運動」が誘発されやすい条件と推察された。研究2では「頸椎の運動と筋硬度の関係」について検証し、頸椎の運動は僧帽筋上部の筋硬度が高いと制限される結果となった。このことから頸椎の正常な運動を維持するためには、僧帽筋上部の筋硬度が低くなる条件(上肢・上肢帯を免荷する条件)を整えることが重要と示唆された。逆に僧帽筋上部の筋硬度が高い状態は、頸椎の可動域が制限されて「頸椎の病態運動」が誘発されやすい条件と推察された。最後に研究3では「後頸部筋の筋硬度と座位姿勢の関係」について検証し、座位姿勢を変化させても僧帽筋A(下位)の筋硬度は変化しない結果となった。一方、僧帽筋B(上位)の筋硬度は胸椎後弯や肩甲骨前傾の条件で低下する傾向であった。このことから僧帽筋Aの筋硬度を低下させるためには座位姿勢以外の条件が必要になり、僧帽筋Bは適度な胸椎後弯・肩甲骨前傾が重要になると推察された。僧帽筋Aの筋緊張を低下させるためには、研究2で得た知見を活用することが重要と考える。以上より、「頸椎の病態運動」を予防する運動療法では、上位胸椎の可動域を改善したり、僧帽筋の筋硬度を低くしたりすることが重要である。また「後頸部筋の持続収縮」を予防する運動療法では、上肢・上肢帯の免荷や適度な胸椎後弯・肩甲骨前傾により筋硬度を低くすることが重要と考えられる。
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