筋損傷を受けた理学療法対象者が,早期にADL能力を獲得するために,筋損傷からの回復を促進させる理学療法を開発することは必要である.これまでの動物実験モデルを用いた研究から,超音波刺激は筋損傷の回復を促進させることが分かった.また培養細胞を用いた研究で,超音波刺激が筋衛星細胞の増殖を促進すること,筋管細胞を肥大させることがわかった.しかし,筋損傷の回復を促進させるメカニズムについては不明である.筋再生には,炎症性細胞,筋衛星細胞,筋細胞の間で生じる複雑なクロストークが重要な役割を担っていると考えられている.そこで本研究では,遺伝子組み換えが行いやすいマウスで筋損傷モデルを作製し,超音波刺激が筋衛星細胞,筋細胞,マクロファージに及ぼす影響を検証し,筋損傷からの回復促進メカニズムを明らかにすることを目的としている. 本年度は,C57BL/6マウスを用いて筋損傷モデルの作製を行った.筋損傷は前脛骨筋の伸張性収縮により作製し,伸張性収縮の条件と筋損傷量,足関節背屈筋群の最大収縮時の関節トルクの関係を求め一定の筋損傷量を作製できる伸張性収縮の条件を定めた.また作製した筋損傷モデルを用いて,超音波刺激による筋損傷からの回復過程を経時的に評価した.筋損傷からの回復は,筋線維横断面積や中心核線維の数,足関節背屈筋群の最大収縮時の関節トルクによって評価した. また,超音波刺激によって筋衛星細胞の増殖が促進されるかどうかを検証した.その結果,超音波刺激による筋衛星細胞の増殖促進効果を刺激強度や照射時間率の大きさで比較すると,より刺激強度が高く,照射時間率が大きい方が筋衛星細胞の増殖促進効果が高い傾向がみられた.
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