研究課題/領域番号 |
20K11296
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研究機関 | 日本福祉大学 |
研究代表者 |
岩田 全広 日本福祉大学, 健康科学部, 准教授 (60448264)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 悪液質(カヘキシー) / 骨格筋 / 萎縮 / 肥大 / 温熱刺激 / ビタミンD / 糖質コルチコイド / 糖質コルチコイド受容体 |
研究実績の概要 |
積極的な身体運動は,非感染性慢性疾患の悪液質(カヘキシー)に由来する骨格筋機能低下の治療や進行予防に有効であるが,臨床で遭遇する患者の中には,原疾患そのものの特異的な病態や二次的な廃用症候群などによって運動制限を有する者も多く存在するため,その代償となる治療法の早期開発が求められている。 これまでに我々は,熱という物理的刺激に対する細胞応答に着目し,骨格筋細胞への加温が悪液質に伴う筋タンパク質の合成抑制・分解亢進に関わる細胞内シグナル伝達分子の活性化と骨格筋萎縮を抑制することを明らかにしてきた。本研究では,その成果を発展させ,骨格筋の加温とビタミンDの投与を組み合わせた新しい治療介入が,悪液質により引き起こされる代謝異常とそれに伴う筋萎縮の進行過程に及ぼす影響を検討する。さらに,その作用機序を解明することで,悪液質に由来する骨格筋機能低下に対する治療や予防を目的とした効果的で効率的な治療法の開発に向けた基礎的資料を提供することを目的としている。 2020年度は,エンドトキシンおよび癌悪液質の病因において重要な役割を果たす糖質コルチコイドの投与によって萎縮が生じる骨格筋細胞(C2C12筋管細胞)を用いて,温熱刺激が悪液質に伴う骨格筋萎縮の進行過程に及ぼす影響とその作用機序について検討した。その結果,①糖質コルチコイドをC2C12筋管細胞に投与すると糖質コルチコイド受容体の核移行が生じ,筋タンパク質の合成抑制・分解亢進を介した萎縮が引き起こされること,②糖質コルチコイド投与前にHSP70の発現を誘導する温熱刺激を行うと,糖質コルチコイド受容体の核移行は阻害され萎縮が抑制されること,③この抑制効果はHSP70阻害剤によってキャンセルされることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は,熱という物理的刺激と脂溶性ビタミンに対する細胞応答に着目し,温熱刺激またはビタミンD投与が悪液質による代謝異常とそれに伴う骨格筋萎縮の進行過程に及ぼす影響とその作用機序の解明を行い,臨床応用に向けた科学的根拠を集積するとともに,温熱刺激とビタミンD投与を組み合わせた治療介入が,タンパク質の合成能・分解能とエネルギー代謝を相加的に改善することで,より効果的かつ効率的に骨格筋萎縮の進行を抑制するのではないかといった仮説を検証することが目的である。 今回,エンドトキシンおよび癌悪液質の病因において重要な役割を果たす糖質コルチコイドの投与によるC2C12筋管細胞の萎縮進行が,プレコンディショニング温熱刺激を行うことでほぼ完全に抑制されることや,その作用機序のひとつとして,悪液質によって誘導される筋タンパク質分解に関わるシグナル伝達系の活性化と筋タンパク質合成に関わるシグナル伝達系の不活性化の両方が抑制されることが寄与している可能性を確認することができた。また,このようなプレコンディショニング温熱刺激の抑制効果は,温熱刺激によってその発現が誘導されるHSP70を薬理的に阻害することでキャンセルされることがわかった。 以上の検証は,培養細胞実験に基づくものであるが,その成果は運動制限を有する非感染性慢性疾患患者に対する新たな方法論の開発に向けた基礎的資料を提供することができるものであり,骨格筋機能障害に対する安全かつ効果的な予防・治療法の在り方にも示唆を与えることができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究実施計画に大きな変更はない。研究実施計画に基づき,今後は培養細胞を用いた追加実験を行うとともに,悪液質に由来する骨格筋機能低下に対するビタミンD投与の単独効果または温熱刺激との併用効果を検討していく予定である。
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