研究課題/領域番号 |
20K11303
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
渡部 厚一 筑波大学, 体育系, 教授 (30447247)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 水中運動 / 呼吸機能 / 認知機能 |
研究実績の概要 |
研究課題を、課題1(観察研究):水中運動が成人男性の呼吸・認知機能に与える影響、課題2(介入研究):12週間の水中運動が高齢者の呼吸・認知機能に与える影響に分けて検討してきた。 課題1では、剣状突起以上の浸水位での呼吸抵抗値の増加から、プール施設の浸水位でも呼吸仕事量を増加させる可能性を確認したため、剣状突起水位、中立水温での水中自転車運動と同運動強度の陸上運動で比較した。水中条件の中等度運動では呼吸数増加、一呼吸あたりの吸気時間短縮と吸気フロー増加、終末呼気二酸化炭素減少を認め、水中運動は陸上運動よりも特に吸気呼吸相に負荷をかける運動様式であり、浸水が運動強度依存的に換気に影響を及ぼすことが示唆された。また、換気の肺気量位を示すOperating lung volumeに着目して比較検討したところ、中等度運動までの水中条件のOperating lung volumeは、陸上より呼気側に位置し、予備呼気量の減少に影響を受けたと考えられた。 認知機能については、陸上と水中の両条件で中強度までの自転車運動を実施し、酸化ヘモグロビン濃度を測定した。認知機能において重要な前頭前野の酸化ヘモグロビン濃度はどの運動強度でも両運動条件でほぼ差が認められなかったが、中強度運動では背外側の一部で水中条件が高く、水中運動中の実行または注意制御との関連性が示唆された。 課題2では、一般的に普及している水中歩行に着目し、健常中高年者を対象に水中と陸上の2条件でNIRSを測定しつつ25mの折り返し歩行とストループ課題からなる実行機能テストを行わせた。その結果、水中歩行では特に折り返し場面で前頭前野の総ヘモグロビン濃度が陸上条件よりも高く、実行機能テストも水中歩行で高値を示した。水中で方向転換する際には水流や抵抗を受けるため、前頭前野の脳活動の亢進を介して実行機能テストに影響を与えた可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
課題1については、当初計画にあるように2020年度内に実施してデータの取得も完了し、論文公表も行えたことからある程度順調な進捗と考えている。 一方、課題2については、呼吸器感染症としての新型コロナウィルス感染症蔓延によって、呼吸機能検査や高齢者への長期介入が困難な状況が続いてきた。このため、進捗状況を「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況を踏まえ、今後の研究の推進方策として、課題1により重点を置き、Operating lung volume に着目して水中運動の呼吸機能のさらなる解明や、水中運動における呼吸機能と認知機能との関連性を検討している。特に、後者では歩行運動の際、呼吸関連指標を同時に計測できなかったことから、ウェアラブルデバイスなどを用いた呼吸関連指標の同時計測の可能性も検討している。 一方、新型コロナウィルス感染症蔓延による行動制限もようやく緩和されてきたことから、課題2に対しても可能な限りチャレンジしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症蔓延による、ヒトを対象とした研究の制限が大きい。特に、呼吸器感染症としての特性により、研究テーマに直接関連した呼吸機能検査や高齢者への長期介入が困難な状況が続いてきた。 一方、新型コロナウィルス感染症蔓延による行動制限もようやく緩和されてきたことから、当初の研究計画に示した高齢者を対象とした運動介入の研究も可能な限り行うとともに、現状で得られているデータ等の更なる解析により論文化を試みる。
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