明治期から現代までの期間における野球を中心とした日本スポーツ界における体罰やしごき、上下関係等の実態とその変化、それが発生・激化するようになったスポーツ界および日本社会の構造的要因について、歴史学的手法に基づいた実証的な研究を行うとともに、日本スポーツ界における体罰をなくすために必要な政策・施策等について検討した。本研究を遂行するために、野球選手138名165冊の自伝・回想録や、戦前から野球部が存在している高校(旧制中等学校)、大学の野球部史や、社会人・プロ野球チームの球団史などを網羅的に収集・読解した。 本研究の結果、日本スポーツ界における体罰の発生・拡大は、学校を中心にした運動部の組織化とそれを基盤とした大規模な大会の成立、スポーツによる進学・就職、競技人口の拡大、競技レベルの上昇、学校外のスポーツ環境の未整備等の構造的な要因によるものであることを明らかにした。 本研究を遂行する過程でA.Millerの著書"Discouses of Decipline An Anthropology of Corporal Punishment in Japan's Schools and Sports"の翻訳を行い、石井昌幸監訳(坂本正樹・志村真幸・中田浩司・中村哲也訳)『日本の体罰 学校とスポーツの人類学』(2021年、共和国)として出版した。また、運動部における体罰激化の反面で、高度成長期に大学スポーツサークルが誕生・拡大した様相を、中村哲也「日本の大学におけるスポーツサークルの誕生と拡大:高度成長期の早稲田大学を中心にして」(2022、スポーツ科学研究 (19))として執筆した。 2023年12月には、本研究の成果をまとめて中村哲也『体罰と日本野球 歴史からの検証』(岩波書店)として、刊行した。本書刊行後、多くの新聞・雑誌に書評やインタビュー記事が掲載されたり、ラジオ番組で取り上げられたりしたほか、第33回高知出版学術賞を受賞した。
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