血糖は運動時の主なエネルギー源であるが、体内の貯蔵糖質(グルコースやグリコーゲン)には限りがあるため長時間運動時には体内の糖質が枯渇して運動の継続が困難になる可能性がある。チオレドキシン相互作用タンパク質(Thioredoxin-interacting protein: TXNIP)は血糖の骨格筋への流入(筋の糖取り込み)を制御する分子である。TXNIPは筋細胞膜上の糖輸送体GLUT4を減少させることで糖取り込みを低下させる。本研究では運動時の活動筋ならびに非活動筋におけるTXNIP発現量の変化が局所の糖取り込みを制御する一つの因子であるという仮説について検証をおこなった。 我々はまず運動時の骨格筋におけるTXNIPの挙動を明らかにするために、実験動物(ラット)に3時間のトレッドミル走(9 m/min、+15 %の傾斜)を負荷し、活動筋と非活動筋のTXNIP発現量を評価した。我々の予想通り、3時間のトレッドミル走によって活動筋のTXNIPは減少し、対照的に非活動筋のTXNIPが増加することが明らかになった。しかし、その時、活動筋の糖取り込み量は増加したものの非活動筋の糖取り込み量は予想に反して低下しなかった。 上記の結果から、運動によってTXNIPが局所的な変化を起こしたため、運動によって活性化する局所因子であるAMPKがTXNIP発現量に及ぼす影響を検証した。実験動物(ラット)から摘出した骨格筋をAMPKの活性化剤であるAICARを含む培養液でインキュベーションしたところ、骨格筋のTXNIP発現量が低下した。 これらの結果から、運動によって骨格筋のTXNIP発現量が局所的に制御されており、それぞれの場所での骨格筋糖取り込みを調整する分子である可能性が示された。本研究の成果は運動が骨格筋の糖代謝を高め種々の疾患を予防改善するメカニズムを明らかにする一助となることが考えられる。
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