研究課題/領域番号 |
20K11362
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
内田 若希 九州大学, 人間環境学研究院, 准教授 (30458111)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | パラアスリート / 共生社会 / 交流態度 / エリート・パラスポーツの功罪 / パラドックス |
研究実績の概要 |
本研究は、「障害のない身体」を有する者 (健常者)、「障害のある身体」を有する者 (スポーツに従事しない障害者)、および「スポーツを行う身体」と「障害のある身体」の両方を有する者 (パラアスリート) の3者の視点から「エリート・パラスポーツの功罪」を明らかにし、包括的な解決方略の探求を目指している。本年度は、「障害のない身体」を有する者 (健常者) を対象に調査を実施した。この調査では、東京パラリンピックの観戦の有無による、身体障害者およびパラアスリートに対するイメージと身体障害者との交流態度の差異を、横断的に検討することを目的とした。その結果、東京パラリンピックを観戦した者および興味を持っていたが観戦しなかった者が、興味がなく観戦しなかった者と比較して、身体障害者やパラアスリートに対してポジティブなイメージを有し、かつ身体障害者との交流場面での当惑や抵抗感が低いことが明らかになった。ただし、本研究は横断的な結果にとどまるため、東京パラリンピックを通した一連の間接的な接触経験によって、イメージや交流態度が改善されたのか、もしくはもともとイメージや交流態度が良好だったために東京パラリンピックを観戦した、あるいは興味を持っていたのかという因果関係を示すには至らなかった。加えて、身体障害者に対するイメージと、パラアスリートに対するイメージの得点の差異について検討した結果、いずれの群においても、身体障害者とパラアスリートのイメージの間に乖離が存在することが明らかになった。このことから、身体障害者のイメージの評価に際しては「障害 (障害のある身体)」が参照されるのに対し、パラアスリートのイメージの評価に際しては「パフォーマンス能力 (スポーツを行う身体)」が参照されることによって、両者のイメージが乖離しうることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、令和2年度に「パラアスリートの存在が社会にもたらすパラドックスの検討」、令和3年度に「パラアスリート自身が抱えるパラドックスの検討」を予定していた。いずれも質的アプローチを用いた研究を予定していたが、コロナウイルス感染拡大下において研究の遂行方法の再検討を行う必要があった。令和2年度は研究方法を質的アプローチから量的アプローチに変更することを決め、量的アプローチを用いた手法でどのように実施可能かを検討するための資料収集や文献研究等を実施した。これを受けて本年度は、令和2年度に予定していた「パラアスリートの存在が社会にもたらすパラドックスの検討」について、オンライン調査を実施するに至った。現在は、この調査結果の精査と、令和3年度に実施予定であった「パラアスリート自身が抱えるパラドックスの検討」に向けた研究の準備を実施している段階である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に実施した研究成果から、「障害のない身体」「障害のある身体」「スポーツを行う身体」をどのように、あるいはどの程度参照しながら評価が行われているのかといった、回答者の潜在的・無意識的側面については、量的アプローチで測ることは困難であることが明らかとなった。よって、補完的にインタビュー調査などの質的アプローチによる追加検証を実施し、本研究の結果とあわせて複合的に考察を深めることで、身体障害者やパラアスリートの身体をめぐる事象を詳細に描きだすことが求められるため、この点に関して追加調査を実施することを計画する。また、令和3年度に実施予定であった「パラアスリート自身が抱えるパラドックスの検討」に関する質的アプローチによる研究を遂行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、研究に遅れが出ているため次年度使用額が生じた。次年度において、遅れている研究の遂行および研究成果の発表において助成金を使用予定である。
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