研究課題/領域番号 |
20K11367
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
佐藤 大樹 芝浦工業大学, システム理工学部, 教授 (90416933)
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研究分担者 |
加納 慎一郎 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (00282103)
赤木 亮太 芝浦工業大学, システム理工学部, 准教授 (20581458)
堀江 亮太 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (60327690)
八幡 憲明 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学領域, グループリーダー(定常) (70409150)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | あがり / 緊張 / 近赤外分光法 / fNIRS / パッティング / 前頭極 / 呼吸 / 脈拍 |
研究実績の概要 |
本研究では,緊張によりパフォーマンスが低下する「あがり」の状態を神経生理学的な「あがり」指標として取得すること,また,その指標を用いたトレーニング法を開発することを目的とする.今年度は,①「あがり」と関連する脳活動信号の同定,②マルチモダリティ計測環境のセットアップを中心に研究を進めた. ①「あがり」と関連する脳活動信号の同定に関しては,機能的近赤外分光法(functional near-infrared spectroscopy: fNIRS)を用いて,「あがり」と関連する脳活動信号の同定を試みた.実験では,男性20名を対象にゴルフパッティングを模した運動タスクを競争形式で実施し,その勝敗に応じて謝金を変動させ心理的プレッシャーを与えた.この運動タスクでは,パッティングしたボールの位置と目標点との距離をエラー値とし,本番5回の平均エラー値で勝敗を決定する.本番前に実施した練習5回の平均エラー値を基準に,本番時のエラー値が減少した群を「向上群」,増加した群を「低下群」として解析を行った結果,前頭極を中心とした領域において向上群が低下群より大きな脳活動値を示すことが分かった.つまり,この領域の脳活動値が,「あがり」指標として有効である可能性がある. ②マルチモダリティ計測環境のセットアップに関しては,本運動タスク時に脈拍センサと呼吸センサを装着し,fNIRSと同時に脈拍および呼吸データを計測できることを確認した. その他,「あがり」と密接に関連するモチベーション(動機付け)に着目し,自己選択による内発的動機付けの効果を脳活動の観点から検討した.fNIRS実験の結果,ワーキングメモリ課題のカテゴリを自分で選択することにより,前頭極の活動が高まることを見出した.これらの結果は,「あがり」の現象やモチベーションの制御には前頭極が深く関わっていることを示唆する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
主要なテーマについては,「研究実績の概要」に記載の通り,概ね予定通りに進捗することができたが,新型コロナウィルスの感染拡大防止のため研究活動が大きく制限されたことを受けて,一部に遅延が発生している. ①「あがり」と関連するfNIRS信号の同定に関して,運動タスクと比較するため認知タスクを用いた実験も予定していたが,新型コロナウィルスの影響により実施には至らなかった.ただし,先行研究の詳細な調査により,「あがり」が特に言語性ワーキングメモリに影響を及ぼす可能性に着目することができた.この知見に基づき新たに言語性ワーキングメモリに着目した研究パラダイムを作成し,実験準備を概ね完了した.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は,ゴルフパッティングを用いた運動タスク,言語性ワーキングメモリを用いた認知タスクの両方において,fNIRS信号を中心としたマルチモダリティ計測データを取得し,総合的に「あがり」指標を開発する予定である.研究の中心となる運動タスクでは,fNIRS計測に加えて,ニューロフィードバックへ適用しやすい脳波計測も実施し,最適な「あがり」指標の開発を目指す.また,認知タスクにおける「あがり」の影響については,既に実験準備が完了しているため,早々にデータ収集を開始する.「あがり」状態では内的に言語機能が活性化されるため,言語性ワーキングメモリ課題を与えた場合に,そのパフォーマンスが向上する場合と低下する場合の両方が予想される.本データにより,「あがり」が外的な対象に対する言語性ワーキングメモリを亢進するのか(あるいは阻害するのか)明らかにし,また,そのパフォーマンス低下と関連する生体信号を特定する予定である. 上記のように,先ずはタスク毎に「あがり」と関連する生体信号を検討するが,その後,両タスクのデータを総合的に解析し,「あがり」に関連する信号成分を特定するためのアルゴリズムを開発,機械学習により「あがり」と「良い緊張」を切り分ける総合的「あがり」指標を開発する予定である。さらに,「あがり」現象にはタスクの種類やプレッシャーの強さなど多様な要因が絡んでいるが,それらは個人のモチベーションにも強く依存すると予想される.そのため,モチベーションに関連した基礎実験も並行し,「あがり」現象を体系的に解明するための研究も進める. 2022年度は,それまでの成果を総合して開発した「あがり」指標をニューロフィードバックトレーニングに応用し,トレーニングシステムの開発および評価に取り組む.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響により,参加予定だった学会が延期になったり,オンライン開催になったりしたため,旅費の使用機会がなかった.そのため,次年度使用額が生じた. 次年度も同様の傾向が続く場合,適宜オンライン環境の改善費などに充て,研究成果の発信を円滑にするために使用する予定である.
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