研究課題/領域番号 |
20K11393
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
井上 恒志郎 北海道医療大学, リハビリテーション科学部, 講師 (30708574)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | BALB/cマウス / トレッドミル走運動 / ストレス |
研究実績の概要 |
本研究は「ストレス高感受性BALB/cマウスにとってトレッドミル走運動(TR)はストレス反応を惹起する嫌悪刺激となり(課題1)、TRを経験したBALB/cマウスでは扁桃体依存的なTR回避行動がみられる(課題2)」という仮説の検証を目的としている。 昨年度までに、課題1では、TRが運動強度非依存的に低・高強度の両方でBALB/cマウスのストレス反応を亢進する一方、自発的な輪回し走運動(WR)ではストレス反応の亢進が起こらないことを報告している。本年度は、一般的なC57BL/6マウスでもTRやWRに対してBALB/cマウスと同様のストレス反応を示すのか検討した。実験では、C57BL/6マウスを30分間の低強度TR(10/min)、高強度TR(25m/min)、またはWR(低強度TRと走行距離を揃える)に暴露し、血漿コルチコステロン(CORT、ストレスホルモンの一種)の経時的変化を検討した。統計解析の結果、高強度TRがCORT濃度を上昇させる一方、低強度TRとWRではCORT濃度に変化はみられなかった。この結果は、C57BL/6マウスでは運動ストレスが強度依存的に惹起され、高強度TRのみストレスとなることを示している。現在は、ストレス調整に関わる脳領域の神経活動の違いを解析している。 課題2は本年度から新たに着手した。実験では、低強度TRを5分間4セット経験させたBALB/cマウス(Ex条件, n=4)とTR上での安静を同時間・同回数経験させたコントロールマウス(Cont条件, n=4)で、24時間後にTRに対する回避行動の変化を検討した。5分間回避行動を観察し、Ex条件とCont条件でTR回避スペースに滞在した時間を比較したところ統計的な有意差はみられなかった。しかしながら、Ex条件では滞在時間が延長する傾向がみられるため、今後まずはサンプル数を増やして検討を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的と課題は、上記の通りである。課題1では、昨年度までに明らかにしたBALB/cマウスにおける低・高強度TRおよびWR に対するストレス応答の違いに加えて、同運動に対するC57BL/6マウスのストレス応答の違いを比較検討した。一連の検討によって、BALB/cマウスでは強度に関係なくTRがストレスとなる一方、WRはストレスにならないこと、そしてC57BL/6マウスでは高強度TRのみがストレスとなることを明らかにした。これらの結果は、一般的な個体(C57BL/6マウス)とは異なり、ストレス感受性が高い個体(BALB/cマウス)では、たとえ軽い強度であっても強制的な運動(TR)がストレスとなるものの、自発的な運動(WR)ではそれが解消されることを示しており、課題1の目的以上の成果を上げることができた。一方、課題2は本年度から新たに着手したが、実験に使用した小動物用トレッドミルの改造や設定に難航したことから、十分な個体数で実験を実施することができなかった。そのため、課題2の今年度の目標である「TRを経験したBALB/cマウスでTR回避行動がみられるかどうかを明らかにする。」を達成することはできなかった。以上から、全体としてはおおむね順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
課題1では当初の目的・予定以上の成果をあげられている。今後は、ストレスホルモンの動態だけでなく、神経活動マーカー(c-fos)などを用いてストレス調整に関わる脳領域の神経活動の変化を検討していくことで、BALB/cマウスとC57BL/6マウスにおいて運動の強度および様式によってストレス応答が異なった神経機構を検討していく。ストレス中枢の視床下部室傍核(PVN)や腹側海馬(vHPC)、扁桃体基底外側核(BLA)、扁桃体外側核(LA)などの解析を予定しており、最終的には多領域間での関係性やハブ領域の検討を目指していく。課題2では、TR回避行動を評価するための新たな行動評価テストの確立を試みている。前述の通り、機器の準備は完了しているが、統計解析に十分なサンプル数が確保できていないために、現在試しているプロトコルの妥当性が検証できていない。そのため、まずは現在試しているプロトコルで実験を重ねて、妥当性と再現性を確認することが急務となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの影響により、現地開催予定であった学会がすべてオンライン開催となった。そのため、学会参加のための旅費、宿泊費として計上していた予算の繰越が生じた。次年度は現地開催が予定されているため、繰り越された予算は、学会参加のための費用として使用するとともに、得られた研究成果を報告するための雑誌掲載費や英文校正費に有効活用、配分していく。
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