本研究は、高ストレス感受性個体(BALBマウス)では、トレッドミル走運動(TR、強制的運動)は強度非依存的にストレス反応を惹起する嫌悪刺激となり、運動回避行動を助長するが、輪回し運動(WR、自発的な運動)はストレス反応を惹起しないため、運動回避行動を誘発しないという仮説を、一般的な個体(C57マウス)との比較から検証することを目的としている。 前年度までに、BALBマウスとC57マウスでTRおよびWRに対する一過性のストレス反応の検討とBALBマウスにおけるTRの回避行動の検討を実施済みである。BALBマウスでは、強度に関係なく、低・高強度TRがいずれもストレス反応を惹起する一方、WRではこの兆候が見られないことと、TR回避行動が見られないことを明らかにしている。またC57マウスでは、高強度TRのみがストレス反応を惹起することを明らかにしている。今年度は、BALBマウスとC57マウスがTRやWRに対して異なるストレス反応を示した機構解明を目指して、副腎皮質ホルモン放出ホルモン(CRH)の分泌とストレス関連脳領域(側坐核や前頭前野、扁桃体など)の神経活動の変化を検討した。抗体反応がうまくいかずCRHの定量・解析には失敗した。ストレス関連脳領域は継続して解析中であるが、現在までにBALBマウスのTRおよびWR条件での解析を終え、TR条件では、強度に関係なくストレス関連脳領域が活性化されていることを明らかにした。関連する成果を国内のフォーラムで報告し、また一部は今年度開催の国内学会(第78回 日本体力医学会大会)でも報告予定である。 全体を通して、運動回避行動につながる脳機構の解明には至らなかったが、本研究は、運動に対するストレス反応が様式(強制vs自発運動)や個体特性によって異なる可能性を示すものであり、その調節に関わる脳機構の全容解明に向けた情報を提供するものとなった。
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