研究課題/領域番号 |
20K11396
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
山中 航 順天堂大学, スポーツ健康科学部, 助教 (40551479)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 運動意欲 / 社会的伝搬 / 回転ホイールケージ / 運動量 / 同期 / ドーパミン / 線条体 / ラット |
研究実績の概要 |
適度な運動の実施が心身の健康の維持増進に効果的であることはよく知られているが、「週3回以上運動する」運動習慣者の割合は30%程度といわれている。運動意欲の維持・向上をもたらす方法の一つとして「意欲の高い他者と一緒に運動する」ことが挙げられる。本研究課題は「他者の運動意欲が中脳ドーパミンー線条体系を介して伝搬する」という仮説の検証を目的としている。2020年度においては、運動意欲伝搬を評価する行動実験モデルを確立するため、特注の二連式回転ホイール付ケージの中に仕切り板を挟んで二頭のラットを同時飼育し、社会的接触度の違いによって各個体の運動量が変化するかどうかについて調べた。動物の運動量の指標として、ホイールの回転数に加え、行動量計測装置(nanotag)を体内に埋め込み、加速度センサから得られた運動量についても併せて検討することとした。二頭のラットを隔てる仕切り板を黒いアクリル板(単独飼育)/金網(ペア飼育)と期間によって換えることで社会的接触度を操作した。単独飼育とペア飼育期間は1週間ずつ切り替え、各期間における運動量を評価した。その結果、二頭のラットの運動量は単独飼育のときよりもペア飼育のときの方が高い傾向があることが観察された。また、二頭のラットの運動開始のタイミングが同期する現象(運動の同期)について、単独飼育のときよりもペア飼育のときにより強く同期現象が生じる傾向が観察された。現在は、運動量については回転ホイールの回転数だけではなく加速度センサの運動量を解析し、回転ホイール以外の運動量についても検討すること、また同期現象の出現の程度や運動開始をリードする動物とそれに追従する動物について時系列データの定量的な解析を進め、時間的な相互関係の検討を行っている。本研究の成果は運動意欲の社会的伝搬メカニズムの神経科学的検証を可能するという点で意義があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の進捗状況として、運動意欲伝搬の行動実験について実際にデータを取得していく過程で新たに考慮すべき点などが明確になり、それらの改善を進めることができた。結果的に社会的運動ケージを用いて二頭同時飼育のラットの運動量解析ができたことから、概ね計画通りに進んでいると考えている。一方、行動実験の次のステップとして計画に挙げている神経細胞活動記録について、当初W5ワイヤレス神経活動記録システムの導入を予定していたが、販売元のTBSI社が開発・販売を中止することになり、入手が困難になってしまった。そのため、神経活動記録については有線記録に切り替えて準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、2020年度に引き続き、二連式回転ホイール付ケージを用いた運動意欲の社会的伝搬について行動データの取得・解析および行動中の神経活動記録の準備を進めるとともに、実際に神経活動記録実験を実施する予定である。「現在までの進捗状況」の項でも述べたように、神経活動記録をワイヤレスではなく有線記録に切り替えることになるため、ワイヤーを通す導線確保のための運動ケージの改良が必要になる可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由については、進捗状況および今後の計画の項でも述べたように、当初初年度購入を予定していたTBSI社の社W5ワイヤレス神経活動記録システムの購入が不可になったことが大きな理由として挙げられる。この点については、有線記録に切り替え、そのために必要な社会的運動ケージの改造費用および動物の頭部に固定するヘッドステージ作成のためのチャンバー、3Dプリンタ等物品の必要経費として、2021年度以降に使用を予定している。
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