本年度は、ハーバーマスの公共圏の類型にしたがって、19世紀以降のドイツの非営利法人と市民及び企業の関係について明らかにした。 民主主義国家の実現を公共圏における公論の機能に期待するハーバーマスは、そのモデルを18世紀後半の市民的公共圏に求めている。文芸的公共性を担うフェアアイン=非営利法人が「平等性と公的論議の練習の場」を形成し、「論議する公衆」としてのブルジョアジーが、家庭という親密圏に由来する精神性を後盾としながら、商品交易を規制する公権力に対抗する批判的公共性と政治的公共性を芽生えさせたことで、市民社会(buergerliche Gesellschaft)に特有の公共圏が形成されたのである。19世紀のドイツにおける体操とスポーツも「平等性と公的論議の練習の場」としての非営利法人に担われることで普及した。 特に19世紀後半から20世紀前半に成立したスポーツクラブの特徴として、その自治・自立があげられる。会員が議決権を持つ非営利法人がスポーツの運営母体となったドイツでは、大企業からの支援をスポーツクラブが受ける場合にも、クラブが自立してその議決権を有することになったのである。 しかし、企業による広範な教育制度の普及は家庭からその教育力を奪い、批判的公共圏から受容的公共圏への構造転換を促すことになり、サッカークラブも国家と企業の宣伝活動に取り込まれていったのである。再びドイツに批判的公共圏が現れるのは、ハーバーマスが新しい市民社会(Zivilgesellschaft)を担うスポーツクラブの可能性を認めた20世紀後半のことであった。非営利法人を中心に、行政や企業と地域住民が交渉するシステムのもとで、商業主義やナチスとの過去や対決が活性化されたのである。現在でもブンデスリーガにおいては、受容的公共圏と批判的公共圏がせめぎ合うアリーナが形成されているのである。
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