本研究で着目したアスリートの家族に研究に全く理解を示さない人がいた。数回の説明で、若干の歩み寄りがみられた。少なくとも、研究の主旨は理解していただいた。しかしながら、今の時点における研究参加には同意されなかった。理由は、「昔」に比して程度は軽くなっているが依然として遺伝疾患罹患者に対する偏見が世の中にはあり、アスリートに想定外の迷惑が掛かる可能性があるからだと。人々の考えは様々。どうしても想定外の事態を考えてしまい、不安もしくは恐怖を感じると。遺伝医学の立場から、遺伝疾患に対する偏見否定の説明を家族に施し理解を得ることは可能であると考える。しかしながら、研究代表者と研究協力者の相互理解が問題の本質ではなく、遺伝疾患に対する社会的コンセンサスが問題のコアであった。
「アスリートに迷惑がかからない時期は、彼女が現役を退いて数年以上の年月が経ち生活の基盤が落ち着き未来の配偶者やその家族が上記偏見を受け流せるタイプの性格と思った時。」「その時には家系構成員がゲノムDNA採取に協力します」と。但し、アスリートから2世代上の家系構成員は80歳代後半と高齢で基礎疾患(下垂体腺腫摘出後の汎下垂体機能低下症等)を有す。家系構成員と同時期にゲノムDNA採取を試みるも死亡その他の状況にて採取不可である可能性があった為、同意を取得してゲノムDNAを採取し冷凍保存した。採取したゲノムDNAを用い既知遺伝子に病的アリルがあるか否かの解析に対する同意は得られなかった。
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