研究課題/領域番号 |
20K11403
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
竹田 正樹 同志社大学, スポーツ健康科学部, 教授 (00278459)
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研究分担者 |
日和 悟 同志社大学, 生命医科学部, 准教授 (00771247)
廣安 知之 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (20298144)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ダーツ / 認知機能 / 脳血流 |
研究実績の概要 |
認知症は、高齢になると脳の変性により認知機能が低下することで起こると考えられている。軽度認知障害の予防や、軽度認知障害時の早期介入は極めて重要である。運動トレーニングに伴う身体活動は、記憶、注意、実行機能など、認知機能の複数の領域で有意な改善を示すことが分かっている。 本研究では、高齢者の認知機能に対する運動トレーニングの効果を調べるため、認知症予防のために特別に開発された、軽い身体活動に加え,算数計算や繰り返しの計画という機能発揮を伴うウェルネスダーツというゲームに着目した。ウェルネスダーツの継続的な練習が認知機能に及ぼす影響について3つの仮説を立て、ウェルネスダーツを定期的に行っている高齢者グループ、ウェルネスダーツを行わない高齢者グループ、ウェルネスダーツを行わない若年者グループの3グループを対象に、横断的にウェルネスダーツ中の脳賦活パタンについて、functional NIRSを用いて検討してきた。 その結果、ダーツ経験高齢者群は、非経験高齢者群と比較して、若年層と同様の脳パターンや前頭葉の脳領域の活性化を示すという仮説が立証された。本研究結果から、ウェルネスダーツのような計画や計算課題を伴う活動を定期的に行うことで、高齢者の認知機能低下を遅らせ、認知症を予防する可能性を示唆していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
定期的に2年以上に渡ってダーツゲームを実施している高齢者に対して,ダーツ中の脳賦活が生じるかどうか,賦活するとすればどの領域に見られるのかについての検討を行うことが本研究の最大の目的であった.そのために,ダーツを定期的に行っていない同姓同年齢の被験者や,認知機能が低下していないと考えられる若年者についてもコントロール群としてデータを収集する必要があった.3群の被験者を募り,ダーツを行っている間の脳賦活状態をFunctional NIRSを用いて一人ずつ測定することは,かなり時間と労力の要するものであった.幸い,被験者を集めることができ,そして,時間をかけて一人ずつ測定し,それらのデータの分析を進めることができた.その結果,脳賦活状態が熟練高齢者群は非熟練高齢者群と比較して、若年層と同様の脳パターンや前頭葉の脳領域の活性化を示すことが明らかとなった. 科学研究費補助金を得て,少なくともここまでは研究を遂行することを目的としてきたため,概ね順調に進展してきたと判断している. 研究目的の1つとして,縦断的研究,すなわちダーツを縦断的に実施した場合のダーツ中の脳賦活状態への効果について脳血流の観点から明らかにすることも念頭に入れていた.しかし,縦断的トレーニング実験はコロナ禍の影響があって,被験者への負担が大変大きく,断念せざるを得ないと判断してきた.現在においてもなおその実験はスタートできていない. しかしながら,これまでに実行してきた実験の結果が非常に有意義であったと考えられるため,少なくとも科学研究費の枠で達成したい目標は概ねクリアできたと考えている. 今後,処理の終わっていないデータの解析,認知機能検査の妥当性の研究(後述),本研究の論文化を進める予定である.
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍故,縦断的検討は多数の被験者を長期間にわたってコントロールすることが難しいと判断している.そこで,研究の計画期間の最終年度である2022年度は,これまでに用いてきた認知機能測定の妥当性について,本研究計画で使用する予定のCogEVOとの測定値との関連性から検討することを計画している.具体的にはダーツを定期的に行っている高齢者,行っていない高齢者,そしてダーツを行っていない若年者の3群に対して,認知機能測定を行う予定である. 筆者がこれまで(文部科学省科学研究費基盤研究C:2017-2019年度,および本研究)に行ってきた認知機能測定は記憶検査,計算能力検査,指の器用さを測る検査,認知的柔軟性検査であった.これらの測定に加えて,本研究計画で示した認知機能測定方法としてCogEVOによる測定を行う.CogEVOは認知機能を「見当識」,「注意力」,「記憶力」,「計画力」,「空間認識力」の5側面に分類している.すべてタッチパッドを用いたタスクをゲーム形式で行うことで測定が可能である.CogEVOによる認知機能検査は信頼性が高いことが,多くの研究の方法として用いられていることから実証されてきている.筆者はこれまでに用いてきた認知機能検査そのものの妥当性に関しては確かめてきていない.従って,これらの測定項目とCogEVOによる測定項目との相関関係を検討することで,これまでにダーツを縦断的に実施したことで短期記憶が高まったという筆者の研究結果で用いた認知機能検査の妥当性について確認したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
縦断的研究を視野に入れていたが,コロナ禍の影響により,実験の実施が困難な状況が続いてきた.多数の被験者を大学に定期的に招き,室内にて密集を伴うダーツトレーニングを実施させることはできなかったため,被験者謝礼や測定に伴う消耗品の購入を見送ってきたことが研究費を繰り越した理由である.被験者が高齢者であり,これまでもワクチン接種を受けた人のみを研究対象として,感染予防に厳重に注意して,一人ずつ脳血流測定を行ってきたが,トレーニング実験の場合は,室内にて必ず密集を伴うことから,危惧する点が非常に多い.2022年度においては,先に示したように,認知機能測定の妥当性を検討することを中心としつつ,データの処理と論文執筆を視野に進めたい.
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