研究課題/領域番号 |
20K11404
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
藤元 章 大阪工業大学, 工学部, 教授 (90388348)
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研究分担者 |
西脇 雅人 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (10635345)
小池 一歩 大阪工業大学, 工学部, 教授 (40351457)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | グラフェン / 硝酸イオン / 拡張ゲート電界効果トランジスタ |
研究実績の概要 |
有酸素運動を行うと動脈壁で一酸化窒素が産生され,血管拡張が起こり,動脈が柔らかくなる.血中の一酸化窒素を人体の外部から検出し,血液中の一酸化窒素の濃度を測定,定量化することは,今後も重要な研究になると考えられる.本研究では,グラフェンを用い,ヒトの血液中のNOを高感度で検出することを目標に研究を進める。グラフェンは比表面積が大きいため,表面で起こる化学変化を半導体センサーとして電気的に高感度で検知することが原理上は可能である.今年度は,硝酸イオンを含む様々な水溶液を用い,EGFETの測定を行った。さらに,グラフェン表面を流れる少量の液滴によって生じる電位差発生を利用した測定も実施した。 拡張ゲート電界効果トランジスタは,市販の電界効果トランジスタのゲート電極から延長された導線につながったイオン検出用の拡張ゲートを備えている.拡張ゲートの材料として,化学的気相成長法で作製された市販の単層グラフェンを用いた。異なる濃度の硝酸水溶液を用意し,拡張ゲート部分を硝酸水溶液に浸け、ドレイン-ソース間に定電流を流しながら時間経過によるドレイン-ソース間電圧の変化を測定した.拡張ゲートを硝酸水溶液に浸けることにより硝酸イオンが拡張ゲート表面に吸着し,参照電極-拡張ゲート間の電圧が変化する.得られた電気的な変化が,硝酸水溶液のpHの変化に依存した可能性であることを除外するために,硝酸ナトリウム水溶液を用いた測定も並行して行った。結果として,電気的な変化が 硝酸イオンの拡張ゲートへの吸着により生じていることを確認した。さらに,グラフェン表面に硝酸水溶液の液滴を流し,この液滴とグラフェン間の摩擦電気により,電極間に生じる電位差を利用した測定を行った。液滴中の硝酸イオン濃度が増加するにしたがい,電位差が大きくなることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では2つの課題を挙げ,課題1-原子層薄膜のガスセンシングと課題2-原子層薄膜で作製したポテンショメトリックセンサーを用いたヒトの血液中の一酸化窒素の検出としている.令和2年度では,主に課題1に取り組み,原子層薄膜を用いて, 一酸化窒素吸着により電気抵抗を大きく変化させ,この検出感度を顕著に増大させることを目標に研究を進めた.令和3年度では,ヒトの血液中の一酸化窒素の検出の予備実験として,グラフェンの拡張ゲート電界効果トランジスタ(EGFET)を用いた硝酸イオンの検出の実験を進め,令和4年度では,硝酸イオンを含む様々な水溶液を用い,EGFETの測定を行った。さらに,グラフェン表面を流れる少量の液滴によって生じる電位差発生を利用した測定も実施した。 令和4年度は,拡張ゲートの電極材料として単層グラフェンを用い,硝酸水溶液の濃度が増加するにしたがい,EGFETの電気的な信号が大きくなることを確認した。また,得られた電気的な変化が,硝酸水溶液のpHの変化に依存した可能性であることを除外するために,硝酸ナトリウム水溶液を用いた測定も並行して行った。結果として,電気的な変化が 硝酸イオンの拡張ゲートへの吸着により生じていることを確認した。さらに,グラフェン表面に硝酸水溶液の液滴を流し,この液滴とグラフェン間の摩擦電気により,電極間に生じる電位差を利用した測定を行った。液滴中の硝酸イオン濃度が増加するにしたがい,電位差が大きくなることが分かった。これは短時間でかつ少量の被検液での硝酸イオンの電気的な測定が可能であることを示している。 今後の課題は,さまざまなイオンを含む溶液で測定を行った場合,硝酸イオンのみを選択的に検出することである。そのため,グラフェンや還元型酸化グラフェン上に,特異的に硝酸イオンを検知するプローブ分子などを修飾させることが必要である。
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今後の研究の推進方策 |
「原子層薄膜で作製した半導体デバイスを用い,ポテンショメトリックセンサーを開発し,ヒトの血液中の一酸化窒素を簡便にリアルタイムでモニタリングすることが可能か」が本研究の問いである。この課題を解決するために,今年度は 硝酸イオンを含む様々な水溶液を用い,拡張ゲート電界効果トランジスタ(EGFET)の測定を行った。さらに,グラフェン表面を流れる少量の液滴によって生じる電位差発生を利用した測定も実施した。拡張ゲートとして化学的気相成長法で作製された市販の単層グラフェンを用いた。一酸化窒素は液体中では,硝酸イオンや亜硝酸イオンとして存在していると考えられる.血液を使用する前に,液体中のこれらのイオンを様々な他のイオンを含んでいても,選択的に硝酸イオンや亜硝酸イオンのみを電気的に検出することが重要である。 硝酸イオンを選択的に検知するための方法の1つは,還元型酸化グラフェンを拡張ゲートして利用することである。結晶欠陥がほとんどないグラフェンを拡張ゲートとして用いるよりも,還元型酸化グラフェンは欠陥サイトが多いため,還元型酸化グラフェンの拡張ゲートの方が硝酸イオンの検出を容易にする可能性がある。2つ目は,グラフェンや還元型酸化グラフェン上に,特異的に硝酸イオンを検知するプローブ分子などを修飾させることである。先行研究では,還元型酸化グラフェン上にプローブ分子であるトリエチルベンジルアンモニウムクロリドを修飾した感応膜を用いて,硝酸イオンの選択的な検出に成功している。3つ目は,グラフェン表面に硝酸水溶液の液滴を流し,この液滴とグラフェン間の摩擦電気により,電極間に生じる電位差を利用した方法の測定原理の解明や測定精度を上げることである。この液滴の測定では少量でよいので,ヒトの血液を用いた測定を考えると,EGFETよりも液滴測定の方が,優位性が高い可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度もコロナ禍のため,令和2年度や令和3年度と同じく出張の機会が少なく,科研費の旅費を全く使うことがなかった。同様に,大学の学内予算に関しても,旅費を使用する機会が少ないため,消耗品を購入するなどの予算に充てることができた。この影響もあり,科研費を用いた物品購入を多額に行わなくても,研究を遂行することができた.令和5年度は,プローブ分子を修飾させた還元型酸化グラフェンのデバイスを作製する予定である。また,グラフェンと二硫化モリブデンを積層させたファンデルワールスヘテロ接合デバイスを作製する予定であり,いろいろな原料を購入する予定である。その他,上記の半導体材料の物性を調べるための電気的な測定系を構築や,血液中のイオンを検出するためのデバイス開発に科研費を使う可能性もある。令和5年度は,学会出張や共同研究先への研究出張も少しずつできるようになり,旅費として科研費を使用する機会も増えてくると思われる。
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