研究実績の概要 |
昨年度,冷却はミトコンドリア生合成のマスターレギュレーターであるperoxisome proliferator-activated receptor γ coactivator-1 (PGC-1)αのmRNA発現量の筋収縮後の増加を減弱させることを明らかにした.今年度はその分子メカニズムについて,シグナル分子のリン酸化に着目し検証した. Wistar系雄性ラットを常温群と冷却群にわけ,常温群は水, 冷却群は氷水の入った袋を用いて,下腿前部を3分間冷却した. その後, 前脛骨筋を20 Hzにて1秒間電気刺激, 1秒間休息を30回繰り返すプロトコルを1セットとし, これを10セット実施した. 筋収縮直後に両脚の前脛骨筋を摘出し,AMP-activatedprotein kinase (AMPK) calcium/calmodulin-dependent protein kinase II (CaMKII),p38 mitogen-activated protein kinase (p38 MAPK)のリン酸化をウエスタンブロッティングを用いて,測定した.また,筋グリコーゲン濃度と筋中乳酸濃度を生化学的に測定した.その結果,両群のAMPK,CaMKII,p38 MAPKのリン酸化は,筋収縮によって有意に増加した.さらに,冷却は,AMPKのリン酸化の増加を有意に減弱させた.しかし,CaMKII,p38 MAPKのリン酸化には,冷却の影響は見られなかった.また,筋グリコーゲン濃度の筋収縮による減少は,冷却により有意に抑制された. 以上の結果から,冷却は,筋収縮によるAMPKの活性化および筋グリコーゲン分解を減弱させ,PGC-1αのmRNA発現量の増加を抑制する可能性が示唆された.
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