研究課題/領域番号 |
20K11433
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
宮下 浩二 中部大学, 生命健康科学部, 教授 (40403604)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 投球障害 / アイシング / 手掌 / 肩内旋可動域 / 肩外旋筋力 / 障害予防 |
研究実績の概要 |
投球による障害(投球障害)予防のために普及している肩へのアイシングの効果が近年疑問視され、リスクさえ指摘されている。野球の現場のみならず、研究でも肩への直接的なアイシングでの冷えすぎによる肩の可動性低下が報告されている。その一方で、「ラジエーター機能」を有する動静脈吻合がある手のひら(手掌)へのアイシングにより身体の深部温度が下がり、熱中症防止やパフォーマンス向上に効果があるとの報告が注目されている。このメカニズムは明確にはされていないが、これらの効果を投球障害予防に活用できるのでは、と考えた。肩に直接ではなく手掌へのアイシングにより肩の機能を維持でき、投球障害予防に有効であると期待できる。しかし、この視点からの研究は皆無である。そこで本研究の目的は、手掌へのアイシングが肩の機能や投球動作に及ぼす影響を明らかにし、さらにこの方法での介入により投球障害の予防策として有効であるか検証することである。 1年目は、手掌へのアイシングによる肩機能への効果を検証した。男子学生48名を3群(対照群、肩をアイシング:肩群、手掌をアイシング:手群)に分類し、肩外旋運動をオールアウトまで行った。その後15分間、対照群は安静、肩群は肩を、手群は手掌をアイシングした。運動前、運動後の安静またはアイシング後(運動20分後)、翌日に肩外旋筋力と内旋可動域を測定した。外旋筋力は、対照群は運動前より20分後と翌日で低下し、肩群は運動前より20分後に低下した。手群は低下しなかった。内旋可動域は、肩群は運動前より20分後、翌日で低下した。対照群と手群は低下しなかった。手群は20分後に対照群より高かった。手掌へのアイシングは肩機能の維持・回復に有効であると示唆された。 現在まで学会発表を1回行い、その内容で論文投稿を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1つ目の課題である「手掌へのアイシングが肩関節機能へ及ぼす影響」を分析したため、次の課題として、投球動作への影響を分析している。当初は、大学野球部投手を対象に試合を想定した実験を行う予定であったが、コロナウィルス感染症拡大に伴う部活動の活動自粛・制限に伴い、選手を対象とした実験が困難となった。そのため対象を高校野球経験のある男子大学生として、実施することとした。現役選手の方が実際的な研究であるが、野球経験のある一般大学生の方が、より規定しやすく対象の変更に総合的な問題はないと考えた。競技への応用を目的とすることに変更はないが、肩に対して試合を想定した負荷を間欠的に加えた際、負荷の合間に行う手掌へのアイシングに効果を検定することとした。手掌へのアイシングによりテイクバックにおける肩外転角度は維持されるという仮説に基づいて基礎的研究を行うこととした。 現在変更した対象に対して以下の実験を実施した。リスクを回避するため実際の投球からシャドーピッチングに変更した。対象に9セットのシャドーピッチングを10回実施させ、その動作を撮影した。その後に10回の最大等尺性肩外転筋力の測定を実施し、これを9セット行った。各セット終了時に手掌にアイシングを5分間実施した場合と実施しない場合の2条件を設定した。最後に再度シャドーピッチングを撮影して、実験後に三次元解析した。手掌へのアイシングが「肘下がり」など投球障害と関係する肩の運動の悪化を防止できるか分析した。さらに肩の深部温度と筋力の変化を2条件間で比較することとした。現在、データの取得までいたっている。
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今後の研究の推進方策 |
2つめの課題は今年度中にデータを解析し、学会発表および論文発表を行える状況にある。しかし、3つ目の課題である「課題1,2の結果をもとに有効と考えられるアイシング法を日常のコンディショニングのルーティンとして実際に本大学の野球部員に適応し、年間を通じて投球障害の発生数が減少するかを検証する。」については、コロナウィルス感染症拡大に伴い、昨年までの部活動の様式が一変してしまい、外傷・障害の発生数などを比較することが困難になった。試合数や練習時間が異なるため、単純比較ができない。少なくとも今年度、来年度までは同様の傾向が続くと考えられるため、抜本的な変更が必要となる。 現在検討している方法は2つある。1つ目は、期間を限定して介入を行う方法である。コロナウィルス感染症拡大が停滞している期間1ヶ月程度に限定して行う方法である。野球部投手を対象として、試合のない期間で、投球練習を集中的に行う時期(夏期合宿など)において投球練習後に手掌にアイシングをした場合と肩や肘にアイシングをした場合の2条件で比較検討を行う。ただし、この方法も今後の感染症拡大状況によるため、実施は不確定である。もう一つは、方法論を全く別のものに変更し、生理学的分析を行う方法である。実験室での研究として、野球部投手に一定数の投球を依頼し、投球後と翌日における肩や肘周囲の炎症状況を超音波エコーで分析し、比較する。手掌へのアイシングと肩へのアイシングで比較をすることで、投球障害予防の可能性を検討する。 いずれにしてもコロナウィルス感染症拡大状況によって変更を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会への旅費等を使用することがなかったため、次年度に持ち越したが、次年度の学会発表関連の費用に使用予定である。
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