本年度は新型コロナウィルスの感染状況が収束しつつあることを受け、複数の協力施設で感染対策を行いつつ、小規模な調査を実施した。その後に、コロナ禍以前(2018~2019年)の結果との比較を行った。成人期の知的障害者に対する分析の結果、基本的な手指の巧緻性課題の成績に明らかな変動は認められなかった。また、同時に実施した基本的な知的能力の評価指標に関しても、明らかな変動は認められなかった。この結果は、コロナ禍のような社会生活経験の制限を受けても、著名な作業能力や知的能力の低下が生じなかったことを意味しており、知的障害者における近年注目されている「認知予備力」にも重なるものとして、重要な知見であると言える。現在、論文化に向けた作業を行っている。 コロナウィルスの流行により、大幅に測定機会が制限され、研究計画を変更せざるを得なかったが、本研究においては、 1)知的障害児・者における不器用と関わるであろう現象の一つとして、運動プランニングの一種である最終状態の安楽効果(ESC効果)をまず取り上げ、知的障害者においてESC効果が稀な現象であることを指摘し、またその代わりに出現する誤反応の特徴を明らかにした。 2)また、こうした運動プランニングが、正しい方法を事前に観察させるだけでは、知的障害児・者に生起しないことを明らかにすると共に、 3)一部の知的障害者においては、先に獲得された運動スキルや認知スキルが、従来の社会生活経験の制限を受けても、少なからず維持されることを明らかにした。
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