申請者は、運動に起因する神経抑制作用の神経特性や機能的意義を明らかにすることを研究の目的としている。2023年度は経頭蓋磁気刺激の皮質内電流方向と抑制機能の関係について検討した。経頭蓋磁気刺激は皮質内電流の方向によって誘発される成分が異なることが知られており、運動に起因する神経抑制作用が刺激電流の方向によって抑制の程度が変調されることが確認された。 研究期間全体では、抑制作用の機能的意義を検討するために、運動経験者における抑制強度の調査に加え、昨今重要視されている再現性の検証も行った。実験では11名の実験参加者から2度データを取得した。運動経験者の抑制強度について、過去の計測データと比較した結果、抑制作用が減弱していることが確認され、3名は安静条件と比べて運動条件の方が運動誘発電位の振幅値が高く、抑制作用が確認できなかった。運動経験によって抑制作用の脱抑制が生じているのか、競技特性が影響しているのかについては今後検討する。 次に、40%MVC強度の肘関節屈曲の等尺性運動を局所的な運動性疲労として課し、その後の抑制作用に与える影響を調査した。その結果、有意差は確認されなかったものの、運動直後に脱抑制傾向が確認された。今回は上腕二頭筋を疲労筋としたが、今後は抑制作用が確認される手内筋における筋疲労がどのような影響を与えるのかを検討することで、神経機能特性を詳細に明らかにすることができる。 運動に起因する神経抑制作用の機能的意義について、腕を用いた運動実施時の肘と指先の協調性を支えるものと推測しているが、長期的な運動経験や短期的な筋疲労によって変調されることが確認された。今後は生理学的な計測だけでなく、動作の精度を評価できる行動学実験も実施することで抑制作用の機能的意義を明らかにする。
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