研究課題/領域番号 |
20K11444
|
研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
宮田 浩文 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (90190793)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 運動ニューロン / 筋損傷 / 神経栄養因子 |
研究実績の概要 |
本研究では,脊髄の各種mRNAの発現量を比較し,神経系の可塑性を比較的簡単に調べる方法を模索している。本年度は,成熟ラットの下腿筋に筋損傷を誘発し,骨格筋のみならず腰髄における遺伝子発現の変化をリアルタイムRT-PCRシステムを用いて定量し,神経系の可塑性に関する知見を得ることを目的とした。 8-13週齢の雄ラットの片側腓腹筋にブピバカインを注入し損傷を誘発するBVP群と,経皮的電気刺激と足関節の強制的屈曲によりエキセントリック収縮を100回繰り返すECC群を作成した。各処置後2,4および7日後に損傷側の腓腹筋および脊髄腰膨大部を摘出した。Sham手術を施したNT群の腓腹筋および腰髄のmRNA発現量を基準にして,運動ニューロンマーカー分子,神経栄養因子と各レセプター分子,および代謝関連因子等のmRNA発現を相対的に定量した。 中枢神経系のストレス応答において細胞保護,免疫機能に関連するOPNのmRNA発現量が,両実験群とも4日後をピークとして有意な高値を示した(BPV5倍,ECC2倍)。また,主な神経栄養因子はほとんどが2日~7日後にmRNA発現量を有意に増加させ,神経系のリモデリングが生じていることが示された。特に,シナプス可塑性に決定的な影響を有するBDNFのmRNAは,両実験ともに長期にわたり脊髄中で5倍以上の高発現を示し,そのレセプターであるTrkBのmRNA発現量が有意に低下した点は興味深い。また,代表的な神経栄養因子であるNGFやCNTFにおいても,損傷筋でmRNA発現量が増加傾向にある一方,各レセプターのmRNA発現量には有意な低下が認められた。これらの結果は,各神経栄養因子がエンドクリン的に全身性に作用している可能性を示唆する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2年目に予定されていた筋損傷に伴う神経系の遺伝子発現に関する実験はすべて順調に終了した。3年目に予定されている低酸素暴露に関する実験についてもすでに進行中であり,骨格筋における分析は一部終了し,3年目の前半には,脊髄の分析を進める目途が立っている状況である。積極的に学会発表ならびに論文作成を行いたい。
|
今後の研究の推進方策 |
3年目は「低酸素暴露が呼吸運動ニューロンの生化学的特性に影響するか? 」について以下のように検討する予定である。 間欠的低酸素暴露は,再酸素化局面において活性酸素種(ROS)を増加させ,特異的な適応変化を生むことが骨格筋において確認されている。一方,その支配運動ニューロンの適応変化についてはほとんど調べられていない。そこで,マウスをコントロール群(24時間:21%O2),持続的低酸素群(24時間:16%O2)および間欠的低酸素群(16%O2と21%O2 を1hごとに反復)として1週間飼育する。骨格筋(腓腹筋と横隔膜)およびその支配運動ニューロンが存在する腰髄膨大部と頸髄膨大部を取り出し,実験群間(低酸素と常酸素)および部位間(頸髄と腰髄)において各種mRNAの発現比較を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
学会等がすべてオンラインでの実施となり,出張旅費等が余った。余った費用は次年度の学会発表および組織・生化学的試薬の購入に充てる予定である。
|