学校現場では,武道の経験がない教員が武道の授業や部活動を担当することがある.武道のなかでも剣道は技(打突)が非常に素早いため,剣道の経験がない教員には打突の有効性の判断が難しい.したがって,剣道未経験の教員に対して,打突の有効性の判断能力を向上させる効果的な方法の開発が必要である.そこで本研究では,①剣道熟練者が打突の有効性を判断する際に特定の視線パターンが認められるのか,②剣道初心者が熟練者の視線パターンを模倣することで有効打突の判断能力が向上するのか,を明らかにすることを目的とする. 昨年度までに,剣道熟練者が面・胴・小手の打突の有効性を判断するときに特有の視線パターンが存在するのかについて検討してきた.打突する部位に関わらず,打突前900msから300msまでの局面では,経験者および未経験者群ともに打突者の竹刀に視線を置く割合が高いが,打突前300msから打突直前の局面では,未経験者群は依然として打突者の竹刀を見続ける傾向があるが,経験者群は視線の置き場を打突者の竹刀から被打突者の身体(打突部位)へ切り替える傾向があることが明らかになった.このことは打突直前における打突部位への視線配置は熟練者の優れた予測的な視線移動を反映しており,これが有効打突の正確な判断に関係しているものと考えられる.また,被験者の瞳孔面積も解析し,経験者においては,面の打突の有効判断において経験年数と瞳孔面積の広さに有意な正の相関があることも確認できた.これは熟練者ほど打突部位を注意深く見ていることを示唆している. 現在,これらの成果をまとめ論文を執筆中である.また得られた成果の一部は論文にして既に報告済みである.
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