研究実績の概要 |
本研究の目的は、胎児期や成長期におけるレドックスバランスの異常(酸化ストレス)が、小児の発達に及ぼす影響を明らかにすることである。これまでに研究代表者は、抗酸化酵素であるCu,Zn-superoxide dismutase(Cu,Zn-SOD: SOD1)を欠損しているマウス(SOD1KOマウス)は、出生から離乳期までの発育が遅く、社交性の低下や様々な行動学的異常が認められることを報告してきた(Yoshihara et al., Free Radic Res. 2016)。さらに研究代表者は、SOD1KOマウスの大脳において、ドパミン神経伝達の調節分子であるドパミントランスポーター(DAT)が顕著に増加していることも見出している。社交性の低下は、自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder: ASD)の主要な症状である社会的コミュニケーション障害の一つであり、これまでに様々なASDモデルマウスにも認められている行動学的異常である。また、DATは、ドパミン(DA)の再取り込み輸送体であり、DAの作用(運動調節、情動、意欲、学習など)を抑制する様に働くと考えられている。これまでに、DAT発現の変化が発達障害における様々な症状と関連していることが示唆されている。本研究では、酸化ストレスモデル動物(SOD1KOマウス)や初代培養細胞(マウス胎児脳よりDAT陽性細胞を採取)および株化培養細胞(PC12、Neuro2a、SH-SY5Yなど)を利用して、酸化ストレス亢進状態がDATの発現や細胞内局在に与える影響を解析した。さらに、神経発達や脳内モノアミン量およびDAT発現などに影響を及ぼすことが示唆されている脳内の金属代謝(鉄代謝)に着目した解析も行った。
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